人工甘味料トレハロースで「感染症急増」は本当か?医学博士が再び検証

 

【しんコロの見解】

以上のような新しいデータが報告されました。そして、僕個人の見解は以下の通りです。

検証1のゲノム解析によってトレハロース代謝遺伝子が古くから存在していたというデータは重要な見解で、今後の追加研究のスターティングポイントとして意義があります。

検証2の死亡率との関連も重要な見解です、ただ症例が200件と少ないので、さらなるデータ解析が必要だと感じました。

検証3の各国のトレハロース輸入に関しては、このデータが本当であればCディフのアウトブレイクはトレハロース以外にありそうだと言えます。輸入量を人口あたりのトレハロースの質量でプロットしたのは良い方法です。一方で、実際にどれだけ食品添加物のみの目的としてトレハロースが使用されたかの質量データがあればさらに正確なプロットが可能だと感じました。いずれにしても、当時の日本での消費量と比較すると欧米での使用量は圧倒的に低いので、トレハロースが直接Cディフのアウトブレイクに関与したという相関はないと言ってほぼ正しいと思います。

検証4は、ヒトで実験をすることはできないので試験管内での実験になってしまうのは仕方ありませんが、利用可能なシステムとしては有用で、重要な初期データではあります。

ただ、使用したのが健常人の糞便のみなので、今後Cディフ感染ハイリスク群の糞便や、Cディフ患者の糞便も用いた実験系の構築が必要だと感じました。というのも、Cディフの発症リスクが高い患者は抗がん剤などを用いているために腸内細菌叢が健常人とは大幅に異なります。健常人の糞便のみを用いた場合、Cディフ以外の腸内細菌がCディフの増殖と毒素産生を抑制するという可能性もゼロではなく、検証する必要があります。その点は、今後の研究で必要だと感じました。

ということで、『Nature』の論文にはいくつかの問題点があることは『EBioMed』の論文から示唆されました。一方で、上記見解でも述べたように『EBioMed』の論文もさらにフォローアップする必要があると感じました。特に、Cディフ感染のハイリスク群に対してもトレハロースは安全であるという点を検証する必要があります。

ただし、くれぐれも誤解をしないで下さい。僕は、Cディフ感染のハイリスク群にはトレハロースは危険かもしれない、とは言っていません。危険かもしれない、という根拠になるデータはいまのところありません。しかし、Cディフ感染のハイリスク群は健常人と全く違う腸内細菌、さらに腸内真菌の構成が異なるということが近年の研究から分かってきています。腸内は非常に複雑な免疫システムと環境なので、トレハロースに限らず、他の食品添加物も腸内の環境の違いで影響が異なることも考えられます。その点も含め、さらに研究が必要であることは間違いありません。

以上、科学者としての中立的な立場での見解を述べさせていただきました。一方で、『Nature』の情報のみが広がって「トレハロースは危ない」という情報が独り歩きして風評被害のようになったのは正す必要があると感じています。

『EBioMed』の論文を元にすれば、それは誤った解釈になるわけです。科学の世界ではこのような異なる意見や結果は日常的に生じます。だからこそ、学会等でそれぞれのチームが討論をする場を設け、そこから今後の必要な研究を構築していくことも重要だと感じています。

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ねこブロガー/ダンスインストラクター/起業家/医学博士。免疫学の博士号(Ph.D.)をワシントン大学にて取得。言葉をしゃべる超有名ねこ「しおちゃん」の飼い主の『しんコロメールマガジン「しゃべるねこを飼う男」』ではブログには書かないしおちゃんのエピソードやペットの健康を守るための最新情報を配信。

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