いじめ探偵が「こども庁」で懸念する、旭川中2凍死事件と同様の地方格差

 

文春「旭川市中2凍死事件」に見る、地方分権の格差問題

また、いじめの問題については縦割りというより、国と地方自治体の温度差や自治体ごとの差が激しく、学校ごとの差もある。公立と私立学校の差もあり、そもそも「いじめ防止対策推進法」が浸透していないという問題が大きくある。

例えば、埼玉県川口市では、市教育委員会が「いじめ防止対策推進法は欠陥法であるから守らない」と裁判で主張したり、被害者を貶めるために証拠のねつ造や改ざん、体罰問題の隠ぺいをおこなっていることが裁判で明らかになっているが、この責任をだれも取ってはいないし改善策もない。

文春オンラインが特集を組んで報じた「旭川市の中2凍死事件」では、その背景に性被害があったことを報じている。

この事件は、文春オンラインで読んでもらった方がより詳しいところではあるが、2月の極寒の公園で凍死した少女は、転校前の中学校で自慰行為を強要されたり、それを撮影されたりしていた。画像を消してくださいと言って川に飛び込むという事件から、この問題は警察が把握するところとなり、主体的に動いたとされる少年は触法少年として厳重注意を受けたようだが、学校は「いじめはなかった」と教育委員会に報告しているいう。加害者やその保護者にもインタビューがおこなわれ、その内容も報じられているが、「誰もその責任はない」としており、「むしろ被害者側の家庭に問題があった」と答えた、と報じられている。

この報道を受けて、旭川市の市長が第三者委員会を設置して、いじめかどうか調べ直すことを約束したということだが、結局のところ、文春オンラインの特集が無ければ、いじめはなかったということにされ、命が失われても自治体は動かないということなのだ。

文科省から指導を受けても、それに従う必要はないと言う地方の各教育委員会は、事実としてある。前述の川口市は県の教育委員会の指導も無視しているし、高知県南国市も過去、議事録なきいじめの第三者委員会はやり直しが必要だと文科省から指導を受けても再調査委員会を拒否する対応をしている。豊田市では、警察が捜査したことで発覚した「いじめ暴行事件」があり、被害側が第三者委員会の設置要望をしてもこれを拒絶している。

一方で、いじめの第三者委員会を常設している自治体では、文科省のガイドラインに沿った運用がなされず、専門家ではない人物がとりあえず登用されている問題もある。常設であるのに常時会議をしていない委員会もあって、形骸化している自治体もあるのだ。

結局、いじめの中でも重大事態のいじめ問題であっても、国の方針と地方自治体や教育委員会は足並みがそろっているとは言えず、縦割り行政の問題よりは、地方分権や教育委員会が独立し過ぎて無法地帯になっているのではないかと思われる問題が浮き彫りになってきているのだ。

つまり、現場まで行き届くには、中央省庁がどうのというよりも、より多くの法や組織を横断する地方分権や教育行政の問題に手を付ける必要があるのだ。

わいせつ教師問題は、当初は「二度と教壇に立たせるな」という印象を残すような報道が目立ったが、横断する法律を改正する必要性があり、断念した節がある。しかし、「それはおかしいではないか」という声が高まり、教員の処分に関して40年の処分歴を教育委員会などが閲覧できるにとどまり、「それでは不十分だ」という声があがると、再び再雇用できない仕組みを作ろうではないかということになったが、反対派は「職業選択の自由はどうなんだ」と吠えるのであり、未だに足を引っ張ろうとしているのである。

一般的に見ておかしいと思える問題も、世間が他人事だと声をあげ無くなれば、途端に有耶無耶にされるだろう。

つまり、脆弱なのだ。

教育行政の改革ともなる「子ども庁」創設には、より多くの複雑な法や組織を横断する整備が必要になる。果たしてこれができるか、期待したいのは山々だが、現場がより混乱するのはご免だ。

私が居る現場は、子どもの命に直結しやすい。もしも、これ以上現場が混乱するのであれば、私だけでは堰き止めることができない現場もある。その時、誰が責任を取るのだろうか。夢物語は勝手にやってくれていいし、叶えられるものならいくらでも協力はする。だが、現場を知らずに語る物語は所詮は「机上の空論」に過ぎないことを肝に銘じてほしいのだ。

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