池上彰氏の甘すぎる論考。米軍アフガン撤退で戦争は終結などしない

shutterstock_1265497792
 

米バイデン大統領は、今年の9月11日までにアフガニスタンで駐留する米軍陸上部隊を撤退すると表明しました。しかし、この撤退には3つの問題が隠されていると指摘するのは、メルマガ『高野孟のTHE JOURNAL』の著者でジャーナリストの高野孟さん。高野さんは、米国を含む現代の戦争が「駐留ありき」の前時代的なものから変化したことに注目すべきとし、米国が「再びアフガニスタンを見捨てることになりそう」との観点を持つジャーナリスト・池上彰氏の意見を「粗雑」「軽率」だと切り捨てた上で、その論拠を示しています。

高野孟さんのメルマガご登録、詳細はコチラ

 

※本記事は有料メルマガ『高野孟のTHE JOURNAL』2021年5月17日号の一部抜粋です。ご興味をお持ちの方はぜひこの機会に初月無料のお試し購読をどうぞ。

プロフィール高野孟たかのはじめ
1944年東京生まれ。1968年早稲田大学文学部西洋哲学科卒。通信社、広告会社勤務の後、1975年からフリー・ジャーナリストに。同時に内外政経ニュースレター『インサイダー』の創刊に参加。80年に(株)インサイダーを設立し、代表取締役兼編集長に就任。2002年に早稲田大学客員教授に就任。08年に《THE JOURNAL》に改名し、論説主幹に就任。現在は千葉県鴨川市に在住しながら、半農半ジャーナリストとしてとして活動中。

米軍がアフガンから撤退しても戦争は終わらない?

バイデン米大統領が今年9月11日の米同時多発テロ20周年までにアフガニスタンに駐留する陸上部隊を全て撤退させることを決めたのは、まことに歓迎すべきことである。

しかし、そこで米国の戦争政策をめぐる3つの問題が浮上する。

第1は、そもそもこの戦争がブッシュ・ジュニアの誤った判断で始められて今日まで20年も続けられ、ろくな成果も挙げずにきたことを思えば、さっさと撤退して何もかもなかったことにするという訳にはいかない。この戦争は一体何であったのかを米国は世界に向かってきちんと語る義務がある。

第2に、バイデンが撤退させると決めたのは正規の陸軍部隊の残余2500人だけであり、それ以外にアフガニスタンには、秘密作戦を行う特殊部隊、CIAの陰謀的な作戦を担う準軍事部門の要員、現地の治安部員を訓練する教官、米国が供与した最新兵器の使用法を教える技術者、現地政府の腐敗を監視・捜査するFBIや国務省のスタッフ、そして何よりも米政府がアウトソーシングしている民間軍事サービス会社のスタッフが正規兵を遥かに上回る規模で駐在している。

第3に、アフガンやイラクでの戦争を通じて米国はますます無人機による空爆に頼るようになり、そうなるとワシントンのCIA本部のコンピューターを通じる遠隔操作で気に入らない人物を爆殺することがいとも簡単にできるようになった。

つまり、米国は陸軍の地上兵力を犠牲覚悟で現地に派遣しなくても、それを代替する民間の戦争ビジネス・スタッフを高額で雇うことが出来るし、さらに軍にせよ民にせよ米国人側の命を危険に晒したくなければ遠隔操作のドローン兵器に頼って戦争し続けることも出来る。バイデンのアフガン撤退策は、そのような戦争そのものの抽象化(?)の上に成り立っている「見せかけの平和」演出なのではないだろうか。

print
いま読まれてます

  • 池上彰氏の甘すぎる論考。米軍アフガン撤退で戦争は終結などしない
    この記事が気に入ったら
    いいね!しよう
    MAG2 NEWSの最新情報をお届け