そのような状況を打開するであろう人事が今回発表されました。それは、前外務次官(儀典担当)で元外務省報道官の泰剛氏(チン・ガン氏)を、習近平国家主席の切り札として、駐米大使に任命し、ワシントンDCに送り込むという人事です。
これまで8年間にわたる役目を負ってきた崔天凱大使(実は私の大学院の大先輩で、元駐日大使)の後を受けての登板となりますが、秦大使はこれまで米国赴任経験はなく、主に欧州の専門家と見られ、また外務省報道官時代には、日米に対して歯に衣着せぬ発言で、現在の中国の戦狼外交の生みの親と言われて、対米超ハードライナーのイメージです。
このような人材をワシントンDCに送り込むのは、アメリカへのさらなる挑戦的な態度と表面的には受け取られかねませんが、実際の秦大使は、二国間外交および多国間外交のスペシャリストで、外交における利害調整の達人という評判で、外国語の能力にも秀でて、ずば抜けたコミュニケーション能力を有する方だと聞いています。
ゆえに、習近平国家主席の信頼も厚いこともあり、実際には、外交の表舞台ではなかなか融和の機会が見当たらない米中関係において、習近平国家主席の意をくむDirectなパイプの存在として、米中間の表舞台と裏舞台における外交チャンネルとして橋渡しを行うことが期待されているのではないかと思われます。
王毅外相、および実質的な外交のトップとされる楊国務委員(じつはこの2人の関係はさほど良くないとのうわさだが)からの評価も非常に高いため、非常に中身の濃い外交ができるだろうと期待されています。
中国政府としては、表面的には国内対策もあり、対米強硬派・姿勢を強めておく必要がありますが、対立のエスカレーションは、中国の力の根源になっている経済力と発展に対して大きなマイナス要因になりうるとの懸念から、秦大使を水面下での折衝のチャンネルとして、米国政府との緊張緩和に尽力する特命を受けているのではないかと推測します。
中国政府の台湾に賭ける本気度は疑う余地がないところですが、今後、米中戦争の狭間で台湾が本当に戦地になるか否かは、実際にはアメリカ政府がどこまで本気に台湾を守る気があるかにかかっていると言えるかもしれません。
もし、実を伴わない口先だけの対中強硬論であれば、その材料として使われた台湾が、中国による武力行使で堕ち、ついに統一されるような可能性も高まってしまうでしょう。
その場合、私たちが暮らすこの北東アジアをめぐる情勢は、想像がつかないほど大きく、かつ劇的に変化することになりますし、アメリカは本格的にインド太平洋地域における威信を失うことになるでしょう。
さあ実際にはどうなるでしょうか。非常に高い関心を持って、今後もいろいろな角度から見てみたいと思います。
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