安倍・菅・麻生に外務省の時代遅れ。「欧米化=近代化」という価値観の崩壊

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イラク、そしてアフガンの地で威信をかけて臨んだ民主化に失敗し、両国及び周辺地域にさらなる混乱をもたらしたアメリカ。そもそも米国の言うところの「民主主義」とは一体どのような定義に基づくものなのでしょうか。そして、彼らが勇んで「侵攻」したイラクやアフガンには民主主義が存在しなかったのでしょうか。今回のメルマガ『高野孟のTHE JOURNAL』では著者でジャーナリストの高野孟さんが、西洋における民主主義を改めて考察しその実態を明らかにするとともに、全世界が見習わなければならないような筋のものではありえないと断言。さらに、イラクやアフガンにも米国が考えるものとは別物の民主主義が数千年前から厳然としてあったという事実と、そのような土地に代議制民主主義モデルを無理やり持ち込もうと画策した米国を強く批判しています。

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※本記事は有料メルマガ『高野孟のTHE JOURNAL』2021年9月20日号の一部抜粋です。ご興味をお持ちの方はぜひこの機会に初月無料のお試し購読をどうぞ。

プロフィール高野孟たかのはじめ
1944年東京生まれ。1968年早稲田大学文学部西洋哲学科卒。通信社、広告会社勤務の後、1975年からフリー・ジャーナリストに。同時に内外政経ニュースレター『インサイダー』の創刊に参加。80年に(株)インサイダーを設立し、代表取締役兼編集長に就任。2002年に早稲田大学客員教授に就任。08年に《THE JOURNAL》に改名し、論説主幹に就任。現在は千葉県鴨川市に在住しながら、半農半ジャーナリストとしてとして活動中。

「民主主義」とは一体何なのか?/分かったようで分からないこの問題を改めて考えるためのいくつかのヒント

前号でミシェル・ゴールドバーグの「アメリカは、ムスリム世界に民主主義を植え付けようとするという、世界中で不信を買うような“聖戦”を発動し、その結果、自分自身の民主主義をボロボロにしてしまった」という辛辣な言葉を引用したところ、ある読者から「そうですね、民主主義って何だったんだろうと考え込んでしまった」という感想が寄せられた。そこで、この問題を考究するためのいくつかのヒントを提供することにしよう。

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「西洋的価値観」は普遍のものなのか?

まず第一に、大枠の一般論として、民主主義を含む「西洋的価値観」なるものを絶対普遍のものであると信じて疑わずに、それを全世界に普及してやろうと思う発想そのものが間違っている。

サミュエル・ハンチントンは1993年の話題になった著作『文明の衝突』(集英社)の中で「西洋的な諸観念」として「個人主義、自由主義、立憲主義、人権、平等、自由、法の支配、民主主義、自由市場、教会と国家の分離」を挙げた。このように、民主主義は西洋的な諸観念の1つと位置付けられている。

しかしハンチントンは、これらの「西洋的な諸観念」を全世界に宣教しようと主張するのではなく、その正反対に、そういう無駄な努力はもう止めようと提唱しているのである。彼は続けて言う。

▼これら西洋の諸観念は、イスラム文化、儒教文化、日本文化、ヒンドゥー文化、仏教文化、また正教文化といったもののなかには、ほとんど反響を見出せないことがしばしばだ。

▼こうした観念を説き広めようとする西洋の努力はかえって、「人権帝国主義」に対する反発を生んで、土着の価値観の再確認をもたらすことになる。

▼「普遍的文明」なるものが存在するという考え方がそもそも、西洋的な発想なのであって、こうした発想は、アジア諸社会の大部分を特徴づける個別主義〔固有の文化を大事にする考え方という意味か?〕と真っ向から対立するものなのだ。

こういう自省的な認識があれば、米国は軍隊をアフガニスタンとイラクに送ってその国家と社会を爆砕し、その瓦礫の上に「米国式民主主義」の白い花を植え付けようなどという途方もない愚挙に出ることはなかっただろう。しかし実際は真逆で、2001年1月に発足したブッシュ子政権は、暗愚の帝王の周りを「全世界の独裁体制を打倒せよ」という狂気の主張を繰り広げるネオコン派が取り囲み、それと連動して「米国の優秀な社会制度を大陸の不幸な民族〔先住民はじめメキシコ人その他〕に広めていくのは神の定めた運命(マニュフェスト・ディスティニー=明白な運命)」と狂信するキリスト教超保守派が草の根から圧力を強めるという構造の下、2つの無謀な戦争に突入したのである。

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