ナンバーポータビリティ(MNP)サービスがあっても乗り換えが活発にならない原因の1つに、キャリアメールの存在が上げられ、菅前首相は2021年中にこの縛りを撤廃すると明言。それに従うようにドコモとKDDIで「メールアドレス持ち運び」サービスがスタートしました。これにより「乗り換え」が進み、料金の値下げ競争につながるのでしょうか。メルマガ『石川温の「スマホ業界新聞」』著者でケータイ/スマートフォンジャーナリストの石川温さんによれば、キャリアは巧妙にアカウント縛りを進めていて、総務省の目論見通りとはならないだろうと、否定的な見解を示しています。
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ドコモとKDDIで「メール持ち運び」スタート──キャリアを解約しても「アカウント」縛りは継続
NTTドコモは「ドコモメール持ち運び」を12月16日より開始した。KDDIも「auメール持ち運び」を12月20日より開始する。どちらも月額330円となっている。ソフトバンクも年内に提供する予定。楽天モバイルは2021年中に予定していたメールアドレスの提供が延期され「提供に向けて準備中」という文言に変わった。
菅義偉総理(当時)が「2021年中にメールアドレスの持ち運びを提供する」と明言していたこともあり、3キャリアは忠実にその命令を死守した格好だ。関係者には頭が下がるばかりだ。
総務省が掲げる「アクション・プラン」により、メールアドレスの持ち運びも実現したことで、キャリアの乗り換えも一気に進むのだろう。
3キャリアが提供している「オンライン専用プラン」ではメールアドレスが付与されないという弱点があったが、今回の持ち運びが実現したことで、メールに依存している人でも気軽にオンライン専用プランに移行できるようになった。もちろん、3キャリアのオンライン専用プランではなく、楽天モバイルやMVNOへの乗り換えも促進されることだろう。
しかし、NTTドコモとKDDIが提供する「メール持ち運び」の条件を見ると「dアカウント」「au ID」が必須となっている。つまり、MVNOや楽天モバイルに移行しても、メールを使い続けようと思うと、契約していたキャリアのアカウントを持ち続けなくてはならない。キャリアの契約を解約しても、メールを使い続けたければ、結局、IDによって囲われ続けることになる。
つまり、移転先のMVNOや楽天モバイルで「ネットワーク品質がイマイチ。やっぱり、前のキャリアに戻りたい」と言うときは、アカウントを持ってすぐに元に戻れるということだ。
NTTドコモのエコノミーMVNOもそうなのだが、なんだかんだで、キャリアのアカウント戦略がうまくいっており、解約したとしても、関係は細々ながらも維持されており、いざというときには元に戻れる構図になっているのが上手くできている。
その点、ソフトバンクの場合はYahoo IDということになるのかも知れないが、年内に提供されるというサービス内容をじっくりと精査したいと思う。
総務省としては「メールアドレスが持ち運べれば競争が促進されて通信料金が下がる」というのんきな視点で見ているのかも知れないが、キャリアは総務省が考えていることよりも遙かに上手(うわて)であり、IDによって、しっかりとユーザーを囲い込んでいる。その事実に総務省は気がついているかも怪しいし、気がついたところで、総務省はどうすることもできない。
キャリアビジネスは、いまや回線だけでなく「ID」が重要となっている。競争政策をどんなに推し進めようと「ID」がつきまとうようでは、いつまで経ってもキャリアの優位は変わらないことだろう。
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image by:yu_photo / Shutterstock.com