プーチンの真意は?ロシアがウクライナに「武力侵攻はしない」と断言できる訳

 

そして、アメリカやNATOは今回のウクライナ情勢に対して、どのような理由で介入を正当化するのでしょうか?

アメリカにとっては、ウクライナは同盟国ではなく、あくまでも自らがリーダーシップをとるNATOへの加盟申請国に過ぎません。物理的に隣接する“アメリカの国家安全保障上の危機”ではありません。

国連憲章第7条に規定される“武力行使が正当化されうる場合”にも当てはまるとは思えませんし(まあ、アメリカはずっと気にしてこなかったですが)、ウクライナにミサイルを配備し、軍隊を派遣するための理由もないでしょう。

欧州各国については、一応地続きであると同時に、今、悩みの種であるエネルギー安全保障にかかわる問題でもあるので、これ以上、ロシアに好き放題されるのは避けたいとの心理はあるでしょうが、これもまた軍隊を派遣するだけの正当性は生まれないでしょう。

それに比べると、まだロシアが掲げる国家安全保障上の理由のほうが、辻褄が合うように考えます。

NATOの東方拡大は、ロシアの目と鼻の先に欧米のミサイルが置かれることにつながるでしょうから、確実に国家安全保障上の危機と認識できますので、この点は交渉不可な、決して譲れない線でしょう。

実際にジュネーブで会談した際にもこの点をラブロフ外相は繰り返しており、ロシアとしては妥協の余地はないと明言しています。

ちなみにこれ、どこかの話にも似ていませんか?賛否両論あるでしょうが、日本がロシアとの間に抱える“北方領土問題”とよく似た心理構造です。

以前、モスクワで聞かされた話では「北方領土の帰属云々は、極論を言うと、実際にはどうでもいい。ただ、ロシアが日本に決して北方領土を返さない、返せないのは、日本がアメリカの軍事的な影響下にあり、返還してしまったら、4島にアメリカ軍基地が誘致され、ロシアの目と鼻の先にロシアを狙うミサイルが配備されることを意味するからだ。決して基地を置かず、ミサイルも配備しないという確約が得られない限り、返還はない。日本政府が確約したとしても、日本政府はどこまでアメリカの意図に影響力を与えられるというのだ。皆無だろう?」とのことでした。

なかなかセンシティブでショッキングなお話ではありますが、今回のウクライナ情勢も味方によっては、同様の理由付けができるのではないかと思います(実際に、アメリカはロシアに確約は与えませんでした)。

ロシア軍とベラルーシ軍、そしてアメリカ軍とNATO軍がウクライナを舞台ににらみ合い、一触即発ともいわれるレベルまで緊張が高まっていますが、不思議なことに、国際情勢を騒がせる“あの国”があまり目立った言動をしていません。

そう中国です。

国連安保理などの外交の前線では、ロシアの側に付いて欧米諸国への非難を行いますが、今回の軍事的な対峙に対しては、直接的なコミットメントをあえて避けているように思われます。

ロシアとは国家資本主義体制を築くにあたっての盟友で、中東アフリカ、そして中央アジアへの勢力圏拡大では二人三脚とも言える協力関係ですが、ウクライナ前線には、中国は軍隊を送り込むこともなければ、中国外交部の記者会見でもあまり激しい論戦は見られません。

どうしてでしょうか?

いくつか理由が考えられます。【中国国内での諸問題の解決に手いっぱい】であること。【アメリカとの対峙に力を注ぎ、核心的利益である台湾併合による中国統一に集中していること】【中国軍のアジア太平洋地域における優位性を維持するためには、対立の最前線を複数化したくない】との意図などがあるでしょう。

そして【習近平国家主席の第3期目に向けた権力基盤の強化を図る中で、今、いかなるマイナス要素も省きたいこと】も理由だと考えられます。

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