プーチンに“恩を売る”習近平の思惑。「無礼」な米国の要請を拒否する隣国

 

では、“その”中国はどうでしょうか?

ウクライナ外相(クレバ外相)から直に仲介依頼を受け、今週にはローマでアメリカのサリバン国家安全保障担当大統領補佐官と中国の外交トップである楊潔篪氏が会談し、ロシアに対して中国が軍事支援をしないようにアメリカが圧力をかける試みを行ったのですが、以前、バイデン政権誕生後、初めての米中会談時に大きな失敗をした教訓は生かされておらず、サリバン氏は楊氏に対して圧力をかけてしまいました。

これがどうしてうまくいかないかは、ここ3週間お話ししております【1】の『無敵の交渉・コミュニケーション術』の内容をお読みいただければご理解いただけるかと思います。

礼を失したアメリカ側からの要請をさらりと交わし、具体的にはコミットしない中国は、プーチン大統領から来ている軍事支援の要請に、何らかの形で応じ、自国の有事の際のサポートを期待して恩を売ることになるかと思います。

もしプーチン大統領からの要請を断るような事態になり、欧米サイドとの共同歩調をとるような場合には、台湾有事の際に中国が経験する究極の孤立の際に、ロシアは一切手を貸さないどころか、隙を突いて中国の持つ権益を狙いに来るでしょう。中国人も恩も仇も忘れませんが、それは国民性こそ違いますが、ロシア人も同じだと言えます。

その中国が、対ロ制裁における国際社会でのconcerted actionsを眺めていて、予想外だったらしいのが、SWIFTからの排除ではなく、海外に点在するロシア関連資産の凍結が迅速かつ厳格に実施されたことで、一部では、「SWIFTからの排除どころではない攻撃」という分析が出ています。

年々、米中対立が厳しくなり、欧州各国も中国包囲網に加わりだした最近の状況を見て、中国政府も対応に苦慮しているようです。

そのような中でも、今回のウクライナ紛争の展開の中で見えてきた構図があります。

正しいか否かは、はっきりと分かりませんが、一言で表すと【笑う米中と、泣く日欧】でしょうか。

アメリカについては、日に日に語気を強め、表現も敵対的になってきているように思われるバイデン大統領ですが、対ロ制裁の音頭を取っても、実際に被るコストは、欧州各国や日本に比べると、小さいと思われます。

特に悩みのエネルギー問題については、シェール革命のおかげで自給可能な状況に達しており、欧州の“友人たち”を救うためにLNGの生産・供給量を大幅に増やすという芸当まで可能になります。

そのうえ、「アメリカの力は弱体化している」と言われる中、今回の紛争を機に、ワールド・リーダーへの回帰ができるのではないか?とのうわさもあります。まさに、バイデン大統領が就任前に語ったAmerica is backでしょうか。

中国については、オリパラを盾にこれまで目立ったコミットをしてきませんでしたが、その裏で欧米日が脱退するロシアの石油天然ガス案件やほかのビジネスの権益を瞬く間に総ざらいし、エネルギー危機と戦う他国を尻目に、自国のエネルギー安全保障は確保するというおいしいポジションにいます。

そして、ウクライナから直接仲介を頼まれたことで、外交上の影響力も増大し、憎きアメリカでさえ、「本件の解決には中国の力が必要」と言わせ、今週のローマでの米中会談を、アメリカ政府からの要請で、開催させています。外交的な勝利と考えられているようです。

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