越えてしまった一線。ロシアの民間人大虐殺で近づいた第3次世界大戦

 

ブチャおよび周辺地域での悲惨な光景を受けて、欧米諸国と日本は挙って制裁の強化で一致しましたが、それでもまだ一枚岩でロシアに対して強固な制裁を課すほどの団結は見せていません。

その顕著な例が、エネルギー安全保障に絡むエリアです。

強硬な制裁を主張するアメリカは、シェール革命以降のenergy independenceと恩恵をベースに、ロシア産原油・天然ガス・石炭の購入を米国企業に対して禁じ、国内のロシア資産および権益の凍結に踏み切りました。

先々週、損得勘定で描きましたが、アメリカはその禁輸措置と欧州の同盟国におけるエネルギー安全保障の名目でLNGの対欧州輸出を拡大させ、その結果、エネルギー部門での売り上げが上昇するという利益を得ています。

欧州はどうでしょうか?石炭の輸入禁止には踏み切りましたが、脱ロシアを掲げつつも、かなり高い割合でロシア産の天然ガスに依存する国々からの慎重な姿勢を受け、結局、天然ガス関連の制裁は見送りました。ドイツのある閣僚の表現を借りると、「ウクライナにおける惨状には心を痛め、ドイツとしては連帯を示すが、同時にドイツ国内のエネルギー安全保障を確保するということも優先事項として存在する」ため、急激な脱ロシアに舵を切れない現実が足並みを乱しています。

そしてこの対ロ包囲網における団結の綻びと穴は、ウクライナ紛争前に欧米で築いてきた対中包囲網の団結も崩れ始めるという副作用が出ています。特にウクライナ・ロシアと地続きで、いつロシアの脅威がウクライナ国境を越えて東欧に波及してくるかわからないという見解もある中、欧州各国は実際に中国にまで手が回らないというのが現状です。同じことはアメリカ・バイデン政権にも言えるでしょう。

その結果、中国は政府も企業も、欧米が見捨てた・切り捨てたロシア産天然ガスを安価でロシアから仕入れることが出来るという、いわば“漁夫の利”を得ることに繋がっています。

世界の目がウクライナ・ロシアに向く中、一旦事態が落ち着いたときには、リバースできないかもしれないレベルまで中国の影響力がいろいろなところに伸長しているという状況を見ることになるかもしれません。

G7と歩調を合わせると表明している日本はどうでしょうか?

唯一の同盟国米国の方針や、国際的な圧力とは袂を分かち、エネルギー安全保障上、切り捨てることが出来ないサハリン1と2に対して継続的なコミットメントを維持することにしました。ブチャとその周辺地域における惨状に対し、政府としては珍しく戦争犯罪という表現を用いてまでロシア非難に打って出ましたが、気候変動問題での脱炭素方針と同じく、「欧米と日本(アジア)では直面している現実が違う」ということで、自国の重要な権益をキープする方向に舵を切りました(注:違ったらごめんなさい)。この影響が今後どうなるのかは見えてきませんが、うまく戦略的に立ち回っておかないと、状況が落ち着いてきたころに、何らかのバックラッシュがくるかもしれません。

日本の一歩踏み込んだ姿勢は、サハリンの継続を明言したにもかかわらず、ロシア政府からのバックラッシュに直面し、懸案の北方領土問題も、北東アジアでの安全保障体制についても、そしてこれまで進められてきた日ロ経済協力も、ロシア側からのはしご外しに遭っています。これらに対して、どのように具体的に対応していくのかをしっかりと示しておく必要があるでしょう。

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