越えてしまった一線。ロシアの民間人大虐殺で近づいた第3次世界大戦

 

エネルギー安全保障に絡んで、中途半端になってしまったのが、金融部門での対ロ制裁です。

ロシアの主要行のSWIFTからの排除は、これまでのVTB(ロシア第2の銀行)をはじめとする制裁に加え、今回、アメリカ政府は、ロシア最大のズベルバンクや第4位のアルファバンクの国際決済網からの排除を提案することで、ロシア経済の苦境を一層悪化させようとしています。

しかし、ここでも「ズベルバンクのエネルギー関連アカウントを例外的に排除対象から外す」という抜け道を作ってしまいました。

一応、同盟国である欧州各国や日本への配慮と言われていますが(もしくは同盟内での支持が得られなかった)、抜け道をこの期に及んでまだ設けていることを見ると、経済的な核爆弾とさえ評される金融制裁も、限界に達しているのではないかと勘繰りたくなります。

金融とエネルギーという観点では、EU内での団結の綻びが露呈しました。

先週だったかと思いますが、プーチン大統領が「すべてのエネルギー関連の支払いをルーブル建てにする」という大統領令を出しましたが、欧州も日本も、これを契約に対する重大な違反と主張して、契約通り、ドル建てまたはユーロ建てでの支払いにこだわるはずでした。

その団結を破ったのが、先週末の選挙で首相に再選されたオルバン首相が率いるハンガリーでした。

ご存じの通り、ハンガリーはEUの加盟国であると同時にNATOの加盟国でもありますが、オルバン首相は公然とプーチン大統領への支持を訴え、首相再選後すぐに、プーチン大統領からの要請に沿う形でルーブル建ての支払いに同意し、欧州発の対ロ制裁の壁に穴をあけてしまいました。

この事態により、2017年以降問題視されてきたEUとハンガリーの係争が再燃することになりました。それは、「法の支配」をめぐる問題で、ハンガリーのオルバン首相の独裁色が強まり、ハンガリー国内での基本的な人権の尊重や、市民社会の発言権の制限、メディアへの統制、野党への妨害といった「法の支配」の確保という、EU条約に盛り込まれた“価値観の共有”条項に著しく反すると欧州議会が問題視しています。

同じくEU議会がRule of Law問題で懸念しているのが、ウクライナ危機で一気に脚光を浴びているポーランドです。

ハンガリー政府同様の懸念を欧州議会はポーランド政府の施策に対しても抱いており、2017年以降、法の支配の尊重を訴えかけてきましたが、今回の250万人とも300万人ともいわれるウクライナからの避難民を受け入れることで、「人権・人道的支援への配慮」というアピールカードを手に入れましたし、NATO軍の対ウクライナ支援窓口として国内の基地を提供することで協力体制をアピールし、欧州議会が発動を考えているEU条約第7条に基づく制裁措置の実施を、棚上げにさせています。

「今は域内問題よりも、まずはロシアによる脅威に対抗するべき時だ」

そう欧州委員会も議会も述べて、対ロ戦線での協力を優先させていますが、少しうがった見方をすれば、ハンガリーもポーランドも、ウクライナ危機を利用して、自国の利益を守っているとも考えられます。

ちょっと言いすぎでしょうか?

ただこのハンガリー・ポーランド問題の先送りは、EUによっては「結束」に対する“東欧時限爆弾”となりかねません。

もしこのままEUと袂を分かち、ハンガリー・オルバン政権がプーチン大統領からの誘いに乗ってロシア側に流れた場合は、EUおよびNATOにとっては大きな脅威になりかねません。

かつてトランプ政権時代にアメリカとロシアの間でシーソーゲームに挑んだトルコのエルドアン大統領のように、不思議な地政学上の駒としてハンガリーが使われかねません。

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