プーチンの「モンスター化」を助けた米国が犯し続ける対ロ政策の失敗

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西側諸国からいかなる批判を受けようとも、ウクライナへの侵略行為を続けるプーチン大統領。もはや制御不能と言うほかないロシアの独裁者の悪しき権力は、何を背景にここまで肥大化してしまったのでしょうか。今回のメルマガ『冷泉彰彦のプリンストン通信』では米国在住作家の冷泉彰彦さんが、現在の事態を招いた責任の一端は、30年間に渡るアメリカの対ロ政策のミスにあるとし、その理由を解説。中でもクリントンとブッシュ両大統領時代の16年を、「悪手の続いた不幸な時代」と位置づけています。

※本記事は有料メルマガ『冷泉彰彦のプリンストン通信』2022年4月19日号の一部抜粋です。ご興味をお持ちの方はぜひこの機会に初月無料のお試し購読をどうぞ。

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アメリカのロシア政策、ミスばかりの30年

ロシア=ウクライナ戦争を考えるとき、2つの大きな疑問が常に頭から離れません。1つは、第二次大戦後に国際連合を作って世界大戦を防止し、少なくとも民間人の大量死を含む正規軍の正面衝突という事態は、人類は回避してきたわけです。その平和がどうして簡単に崩壊したのか、これはその意味合いの大きさもそうですが、とにかく重たい問いとして残ります。

大きく世界を俯瞰して見た時に、戦後77年を経たこの期間、前半は冷戦の時代であり、後半はテロ戦争の時代でした。冷戦期には多くの代理戦争がありましたが、大規模な正規軍による総力戦に近い状態というのは、非常に少なかったのです。ベトナムでの米国は、一種の傀儡政権である南ベトナムを建前に立てていましたし、朝鮮戦争の場合も前面に出ていたのは国連軍という建前でした。

テロ戦争も同じで、国連のお墨付きを得た多国籍軍や有志連合という形態が建前として据えられていました。少なくとも、軍事大国が自国の利害という露骨な戦争目的で堂々と隣国に総力戦に近い、しかも大量の民間人迫害を伴う戦役を仕掛けるということは、制度上想定されていなかったように思うのです。

もう1つは、ソ連解体という事件の意味合いです。1991年にソビエト連邦は崩壊しました。結果平等、格差是正という建前が、その手段として独裁を許容したことで、恐怖政治に堕落し、その後も寡頭制+計画経済という歪んだ体制に軍事覇権が付加されていた奇怪な政治体制は消滅したのです。

ですから、世界中の人々は、1990年から91年にかけてソ連が崩壊した際には、これで自由世界が勝利し、選挙による多数政党のチョイスと言論の自由、人権の擁護、そして自由経済という概念が最終的な勝利を収めたと思ったのでした。

ですが、今回の事件はその「勝利」の感覚が誤りであったことを証明しています。少なくとも、不正や脅迫のない自由選挙による民主主義、言論の自由と基本的な人権、生命の尊厳の保証、自由競争による経済の繁栄といった「自由主義革命の夢」は、ほぼ完全に打ち砕かれてしまいました。

現在のロシアは、プーチン体制という途上国独裁があり、これがエネルギー産業を中心として個人的な人脈で形成された経済と癒着しており、更に軍事的覇権主義が権力の源泉となって軍事ポピュリズム的な世論を人工形成することで、少数意見を圧殺する体制となっています。いわば、平等主義なき共産主義であり、熱狂なきファシズムという形態であり、また悪いことに不完全ながら公選制度を権力の権威付けに使っていることから、有権者を共犯者として取り込んでいるわけです。

つまり、1991年にロシア国内の人々も含めて、世界中が感じた「これで自由と人権と平和が勝利した」という感覚は、30年を経て「ほぼ完全な裏切り」に会っていると言っても過言ではないでしょう。その落差の大きさには恐怖を覚えます。

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