“美味しい”をそのまま冷凍する「凍眠」で飲食の新業態を切り拓いたスゴい企業

 

気体より液体の方が早く熱を伝える

さて、コロナ禍を迎えた。カスタマーズディライトは現状を打開する事業の芽を探していた。それが「凍眠」であった。これは調理済み食品を真空パックして、マイナス30度のアルコールに浸けることによって急速に凍らせて、必要な時に解凍するというもの。この解凍した時の再現性が優れているという。

この技術を開発したテクニカンは、代表の山田氏が「凍眠」の技術を生み出して事業をスタートした。会社設立は1989年7月である。

山田氏は家業である食肉卸業を継いでこの事業を営んでいた。外食産業が急成長する中で食肉の需要は増えていったが、供給が追い付いでいかない。それは食肉を冷凍させるために時間を要したから。そこで食肉を冷凍させる時間を短縮して需給バランスを保つことを常々考えるようになった。

山田氏はダイビングを趣味としていて、ある時、海の中の「水温20度」と陸上の「気温20度」の感じ方が全く違うことからあることをひらめいた。それは、液体の方が気体よりも早く熱を伝えることができるということ。これに関連して説明すると、90度の熱湯に触れると火傷をするが、サウナの90度は我慢することができる、ということだ。そこで「比重が軽くモノが沈む」「低温になっても凍結しない」「機械が腐食しにくい」等々のポイントを整理していき、この冷凍技術の液体には「アルコール」が適していることを突き止めた。

この技術開発の目的は当初「冷凍のスピードを上げる」ことであったが、冷凍した食品の「再現性が高い」ことが分かった。クオリティの高い冷凍技術と言っても過言ではないだろう。冷凍食品の需要は増える傾向にあったが、同社によると「再現性はとても良い。しかし、どこかに欠点があるのでは」と周りから訝しがられ、大きく脚光を浴びることがなかったという。

「凍眠」が注目されるようになったのが、コロナ禍であった。「凍眠」が食品を扱う業界の課題を解決する存在として知られるようになった。同社では2019年暮れに「凍眠ミニ」(TM01)の販売を開始した。1時間あたりで1.5㎏の食品を冷凍できる機械。これがコロナ禍となり、倍の勢いで売れるようになった。

冷凍食品の新しいジャンルをつくる

「凍眠」の技術はB to Bにおいて大きく二つのスキームがある。

まず、食品工業の場面。産地で採れたものを「凍眠」にかけることによって同じ鮮度感で長期保存ができる。これによって食品の相場の変動リスクが軽減される。例えば、ある漁港で名産の魚介類が大量に揚がったとする。それを生で流通させ、一方で「凍眠」にかけておくと不漁の時にも安定して流通させることができる。

次に、飲食業の場面。食材に「凍眠」をかけることで、最も品質の良い状態の長期保存が可能となり、廃棄ロスが著しく軽減される。これまで手空き時間とされていた時に調理が可能となり、得意とする料理を冷凍食品化することによって遠距離の需要者に届けることができる。

この後者の発想は、技術の開発者であるテクニカンに新しい事業をもたらした。「凍眠」をかけた食材や調理済み食品を販売する「TŌMIN FROZN」(トーミンフローズン)を2021年2月、横浜市営地下鉄・仲町台駅(横浜市都筑区)近くにオープンした。ここでは「凍眠」の機械を使用している食品業者や飲食業者から仕入れた冷凍食品を約500品目ラインアップしている。

テクニカンが手掛けた冷凍食品の小売店「TŌMIN FROZN」の店内

テクニカンが手掛けた冷凍食品の小売店「TŌMIN FROZN」の店内

例えば、冷凍すし1人前1,490円(税込)という商品がある。これはすし職人が一貫ずつ握っているというコンセプトで製造され、フレッシュな状態の価格とほぼ同等になっている。「長期保存が可能で再現性が高い」という特長によって、一般家庭における冷凍食品の新しい使い勝手を切り拓いている。

「TŌMIN FROZN」で販売されている冷凍すし1人前1490円(税込)は冷凍食品の領域を拡大した

「TŌMIN FROZN」で販売されている冷凍すし1人前1490円(税込)は冷凍食品の領域を拡大した

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