ホンマでっか池田教授が生物学視点で断罪。後進国ニッポンの古い「婚姻制度」

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トランスジェンダーで男性から女性に性別変更した人が、自身の子どもの認知を求めた裁判で、東京高裁が科学的にはまったく不合理な判決を下し議論を呼んでいます。今回のメルマガ『池田清彦のやせ我慢日記』でCX系「ホンマでっか!?TV」でもおなじみ生物学者の池田清彦教授は、生物学的には多様性の一つで当たり前のトランスジェンダーを「性同一性障害」として、障害者扱いする関連法案の名称そのものも含め、問題の原因が性や性別に関する日本の法律の時代遅れにあると指摘。性を変更したい人に対してほとんど虐待に近い難題を押し付けていることについても問題提起しています。

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後進国日本の婚姻制度

男性から女性に性別変更した人が、凍結していた自分の精子でパートナーの女性との間にもうけた子を、自分の法的な子として認めてほしいと訴えた裁判で、2022年8月19日、東京高裁は不可解な判決を出した。この人はパートナーとの間に2人の子がおり、長女は性別変更する前に生まれた子で、次女は性別変更した後で生まれた子である。

自分の公的な子として認知するように訴えた1審の東京家裁で、長女も次女も法的な子として認められなかったので上告していたのだ。東京家裁の判決理由は「女性に性別変更したため法律上の父とはならず、出産していないから法律上の母にもならない」というものだった。

生物学的なすなわち正しい親子関係は遺伝子の垂直伝播によって決まり、法律によって決まるわけではない。今回の東京高裁は、東京家裁の判決を覆し、長女については法的な親子関係は認めたが、次女については認められないとした。

長女が生まれたときは男性だったので公的な親子関係として認めるが、次女が生まれたときは女性だったので公的な親子関係として認めないという理屈だろうが、性別変更したからと言って、この人が生物学的に男性から女性に変わったということではないのだ。そもそも、性や性別に関する日本の法律は世界水準から見てどうしようもなく時代遅れで、早急に法律を変える必要があるが、マイノリティの権利よりも自分たちの金儲けの方が大事な政治家たちは、法律を変えるつもりはないらしい。

LGBTの権利を擁護すべきという意見が強くなってきた背景にあるのは、LGBTは個々人に備わった個性であって、異常でも病気でも障害でもなく多様性の一つだという生物学的な認識にある。確かにLGBTはマイノリティであるが、マイノリティが障害であれば、平均値から極度にずれた人は障害者ということになる。オリンピックで金メダルを取る人は運動障害者であり、東大にトップで合格する人は脳障害者だ。これらの人が障害者でないならば、LGBTも障害者ではない。

かつては、人は男と女にはっきりと分かれていて、中間的な存在は異常だと思い込みたかった人が多かったという事情もあったのだろう。最近出版した拙著『バカの災厄』にも書いたけれど、多くの人は細かい差異を無視して同一性を捏造したがる。それで、すべての人は男と女という同一性に回収されて、それ以外の同一性は存在しないと信じれば、そこからはみ出るものは何であれ異常ということになる。日本の法律はそういう信憑の上に成立しているので、生物学的な事実を完全に無視している。

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