G20からのプーチン排除に失敗した米バイデンが見誤る世界の実状

 

従って第3に、NPT再検討会議の最終文書草案がロシアを名指しで非難しないようにしながらも同原発に関して「ウクライナ当局による管理の重要性を確認する」という表現を残したのは、ロシアを怒らせるための米国の挑発以外の何物でもなかった。

もちろん、ロシアのウクライナ侵攻そのものが不当であり、そこで起きている全てのことはロシアに責任があると言えばそうに違いないのだが、米国代表が「ロシアがこの表現を嫌ったのはウクライナを地図から消そうという企てを覆い隠そうとするものだ」と言い立てたのは、このローカルな1原発の管理問題というはっきり言って些事を以てNPTの大義をブチ壊し、ロシアの悪逆非道ぶりを際立たせようという米国の対露「政治制裁」作戦の一環である。

ロシアを叩けば米国が浮上するという錯覚

米国がこのように感情剥き出しでロシア叩きに狂奔するのは、かつて20世紀には疑いもない世界No.1覇権国であった時代へのノスタルジアからのことで、その時代が終わってしまった以上、米国は必ずしもNo.1ではなくなり、例えば今世紀半ばを待たずして中国にもインドにもGDPで抜かれてNo.3になることを見通して、多極化した世界の一員として振る舞うことを学ばなければいけないのに、その悟りを開くことができないという老大国の認知障害の表れである。

現にウクライナ情勢をめぐっても、7月にジッダを訪れたバイデンにサウジのムハンマド皇太子が教え諭したように「米国の価値観を100%押し付けようとすれば、付いていくのはNATO諸国だけで、それ以外の世界の国々は米国と付き合わないだろう」(本誌No.1168参照)というのが世界の実情であるのに、米国にはそれが見えない。

この問題にバイデンが否応なく直面せざるを得なくなるのは、今年11月15~16両日バリ島で開かれる「G20」首脳会議となろう。G20サミットのホストであるインドネシアのジョコ大統領は18日、同会議にロシアのプーチン大統領と中国の習近平主席が揃って参加することになったと発表した。この発表は、日本のメディアでは誰一人そう解説していないが、米国の「プーチン排除」要求に対するあからさまな拒絶である。

ブルームバーグ・ニュースのコートニー・マクブライド記者によると「ロシアのウクライナ侵略直後から、米国はインドネシアに対しロシアをG20から除名せよ、プーチンをバリ・サミットに呼ぶなと圧力をかけてきた」(ジャパン・タイムズ8月22日付)が、対露経済制裁に加わることも拒んできたインドネシアがそのようなG20の枠組みを破壊するような計画に賛成するわけがない。それどころか、同じ文脈で、米国が8月にペロシ下院議長を台湾に送り込んで中国に対し無用の扇動を行ったことにも不快感を深めている。

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