デジタル化のみではNG。Windows95設計の日本人エンジニアが語るDXの本質と展望

 

同様の時期に、Appleも「次世代OS」(PinkとTaligent)を開発しようとしたけれど失敗し、1985年にAppleから追い出されたSteve Jobsが作ったNeXTを1997年に買収し、そこが開発していたNeXTSTEPというOSが、Mac/iPhone/iPad向けのOSのベースになっている点は、非常に興味深いと思います。

両者に共通するのは、MicrosoftとAppleの両方の会社で、「社運を賭けた次世代OSの開発」が失敗しているという点、そして、どちらのケースでも、次世代OSを開発することとなったのは、本流とは異なる部隊(MicrosoftではWindows 3.xチーム、AppleではNeXT)が起こしたという点です。

イノベーションは必ずしも経営陣が計画した通りには起こらず、個々のエンジニアが起こすイノベーションが、会社によって上手に引き出された時に起こる、という点は強調しても良いと考えています。

大きな会社において、個々のエンジニアが起こすイノベーションをいかに会社としてのイノベーションに繋げていくか、というのはとても難しい問題ですが、MicrosoftとAppleの事例から、学べることは多数あると考えています。

次に、未来の話をする下準備として、私がこのメルマガでも何度か触れている「デジタル・トランスフォーメーション(DX)は外からやってくる」という話もここでしたいと考えています。

DXは、単なる既存のビジネスプロセスのデジタル化・自動化ではなく、デジタルの技術を活用したあらたなビジネスの創出なのです。インターネットを活用した書籍の販売は、Bordersや紀伊國屋書店のような既存の書籍販売ビジネスの会社が起こしたのではなく、実店舗を持たずに書籍のオンライン販売を始めたAmazonが起こした点は、注目すべき、とても重要な点です。

今回、講演をする相手は、医療ビジネスの大手なので、不必要に脅す必要はありませんが、単にこれまでのビジネスをデジタル化するだけでは不十分であり、デジタル技術を活用した新しい価値を生み出し、既存のビジネスを破壊するぐらいの意気込みが必要だと強調したいと考えています。

今後の展望に関して言えば、とにかく人工知能の技術が重要な役割を果たすことを強調したいと思います。

今の人工知能のベースになっている、ニューラルネットワークという発想は1960年代からあるものですが、実際に使えるものとして花開いたのは、ごく最近(2011から2012年)のことです。その後のイノベーションのスピードは素晴らしく、画像認識では人間の認識能力を上回るところまで来ているし、それ以外にも、物体認識、翻訳、画像生成などでさまざまなイノベーションが同時に進行しています。

私が関わっているドローンベンチャーが注目しているNeRF(Neural Radiance Field)というテクニックは、2020年にUC Berkeleyの研究者たちによって作られた、これまでとは全く異なる「3Dキャプチャ」の手法ですが、その後わずか2年の間に起こったイノベーションのスピードは目をみはるばかりです。

Elon Muskが作ったOpenAIが開発したGPT-3とDALL・Eは、人工知能のイノベーションを大きく加速させました。

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