上昌広医師が苦言、マスクのコロナ予防効果の低さを知らぬ日本人

2022.10.08
 

では、韓国の研究はどんな結果だったろうか。彼らは新型コロナに加え、同じコロナ属の重症急性呼吸器症候群(SARS)、中東呼吸器症候群(MERS)ウイルスに対するマスクの予防効果を併せて検証した。その際、医療従事者が着用するN95という特殊なマスクと、一般人が着用するサージカルマスクについて、別個に解析した。

まずは医療従事者がN95マスクを着用した場合の効果だ。報告されている14の臨床研究をまとめると、感染リスクを71%も減らしていた。極めて有効だ。ただ、N95マスクは着用すれば息が苦しくなり、一般人が日常的に着用するのは難しい。

サージカルマスクはどうか。医療従事者を対象とした12の臨床試験をまとめると31%、一般人を対象とした2つの臨床試験をまとめると22%感染のリスクを減らしていた。しかしながら、両方とも、その差は統計的に有意ではなかった。これは、研究で示された有効性は単なる偶然でも説明が可能で、医学的には効果は証明されていないことを意味する。

ちなみに、この結果はインフルエンザに対するマスクの有効性を検証したメタ解析の結果とも同じだ。先行研究とも一致し、今回の研究結果は信頼できそうだ。以上の事実は、一般人がマスクをつけた場合の有効性は医学的に証明されておらず、もしあったとしても2割程度ということになる。

コロナの感染経路はエアロゾルによる空気感染だ。屋外で感染することはまずなく、感染はもっぱら屋内で起こる。この結果は、屋内でマスクを装着しても、効果は限定的ということを意味する。

だから、マスクは付けるべきでないと、私は主張するつもりはない。ただ、現在の医学的エビデンスに基づけば、嫌がる人に装着を無理強いする必要はないし、マスクを装着していない人が周囲にいても、そこまで気にする必要はないということはできる。

ワクチン接種や実際の感染による免疫獲得が進んだ現在、大流行の最中は兎も角、現在のような収束期にはマスクの有用性は低いといっていい。だからこそ、冒頭にご紹介したCDCの提言へと繋がった。マスクの着用については、科学的な議論が必要である。

上 昌広(かみ まさひろ)
医療ガバナンス研究所理事長。1993年東京大学医学部卒。1999年同大学院修了。医学博士。虎の門病院、国立がんセンターにて造血器悪性腫瘍の臨床および研究に従事。2005年より東京大学医科学研究所探索医療ヒューマンネットワークシステム(現・先端医療社会コミュニケーションシステム)を主宰し医療ガバナンスを研究。 2016年より特定非営利活動法人・医療ガバナンス研究所理事長。

image by: Ned Snowman / Shutterstock.com

上 昌広

print
いま読まれてます

  • 上昌広医師が苦言、マスクのコロナ予防効果の低さを知らぬ日本人
    この記事が気に入ったら
    いいね!しよう
    MAG2 NEWSの最新情報をお届け