野党が叫ぶ「企業の内部留保へ課税せよ」論が亡国につながる訳

 

故人となった今は、まるで「経営の神様」のように思われている稲盛和夫氏ですが、比較的若い時の自伝で面白いエピソードを述べていました。稲森氏が最初にビジネスに成功した際、税務署がやって来て、利益の多くを法人税として持っていったので驚いたのだそうです。そこで2年目には、製造用の機械を多く買ってカネが残らないようにして、利益をゼロに近い数字で申告したそうです。そうしたら再び税務署がやってきて、1年目よりももっと厳しい口調で怒られたそうです。

どういうことかというと、10億円のカネを出して機械を買った場合に、10億円のカネが消えるわけではないのです。10億のカネは、機械に化けたわけですが、その機械はちゃんと出したカネの分の価値はあるわけです。

正確に言うと、10億の現金という財産が、10億の機械という財産に置き換わっただけです。勿論、機械の場合は摩耗したり、技術が時代遅れになったりします。ですから、耐用年数というものがあって、仮にそれが10年だとします。そうすると、10億円を10年で割って毎年1億円ずつを「帳簿から減らしていく」ということをします。カネは最初の年に出ていったのですが、そのカネが置き換わった機械は1年毎に価値が1億円ずつ減っていく、その分を毎年1億円のコストとして記録するし、その分は利益から引いて良いことになっています。帳簿上は、一種の分割払いです。

ということで、非常に単純に申し上げるならば、企業が稼いだお金を「内部留保」しているという数字には、そのような機械を購入して、カネが機械に置き換わった後に、毎年価値を減らしているが、その瞬間にはまだ価値が残っている、つまり設備の価値というのも入っているわけです。

と言いますか、企業というのはよりよい製品やサービスを提供して、国際社会に貢献する、そのことで売上と利益を最大化するということを「目的とした組織」であり、これはビジネスというゲームの基本中の基本ルールであるわけです。

ですから、決算で発表される帳簿だけを見ていて「企業は内部留保を溜め込んでいる」と考え、「だったら余計なカネを銀行口座に貯めている」に違いない、だったら、そのカネを税金で取り立てるべきだというストーリーは、最初から間違っていることがわかります。

もっといえば、帳簿上は内部留保になっている数字のほとんどが、工場や機械などの設備投資に回っている企業に対して、新たな課税をするようですと、企業は借金をして納税しなくてはならず、経営的に行き詰まってしまうかもしれません。

では、ということで企業が貯め込んでいる銀行預金に課税するという話もあります。これも誤解があって、企業の貯めているキャッシュは、ビジネスを行って儲かった余計なカネだという決めつけは出来ないのです。

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