激怒のアメリカ。停戦探る米露会談にウクライナが呼ばれない理由

 

この冬の天然ガス供給危機は、アメリカなどからのLNG供給という形式で何とか免れると言われていますが、脱炭素を進める方針のバイデン政権としては、いくら緊急措置とはいえ、LNGのキャパシティの拡大を続けるには限界があり、インフレに苦しむアメリカ国民の支持を得ることはできないとの読みがあるため、欧州を見捨てることはないと思われますが、迅速に救済する基盤が存続できるかは未知数のようです。

また、これまで突出して行ってきた対ウクライナ軍事支援も、年明けごろからはアメリカ軍の武器弾薬の在庫および予備に支障が出る見込みとのことで、いくら軍需産業が活況とはいえ、さすがにハイマースなどの兵器の製造が追いつかない状況に陥っているため、今後は対ウクライナ軍事支援を絞る必要が出てくるとの見立てが影響していると思われます。

ゆえに、最近になってアメリカ政府はロシアとの対話の機会を探り、早期にウクライナでの戦争を終結させなくてはならないといったポジショニングを取るようになってきています。

トルコの首都アンカラで行われたCIA長官とロシアのFSB長官との会談や、米ロ間の外交チャンネルの再活発化などは、米ロ双方からの出口の模索の現れと理解できます。

しかし、この場には残念ながらウクライナは含まれていません。

これはアメリカからウクライナに対してロシアとの話し合いのチャンネルを切るべきではないと再三要求したにもかかわらず、ゼレンスキー大統領は徹底抗戦を続ける中、交渉再開に関心を示さず、さらにはポーランドへのミサイル落下事件の際に、かなりのフライングでロシア非難をし、危うく第3次世界大戦の引き金になりかねたことに苛立ちと怒りを感じていることで、アメリカがウクライナを外交舞台から切り捨てたという見方も出てきました。

そんな中、欧州も直接的なウクライナへの軍事支援から、ロシアをテロ支援国家指定にすることでロシア経済の息の根を止めにかかる戦略に転換したと思われます。

夏以降、留まることを知らないウクライナへの支援疲れに加え、ゼレンスキー大統領などによるフライング気味の言動と欧州に対する批判への怒りが相まって、こちらも“ウクライナはずし”に傾いてきているように見えます。

もしそうならば、一見、ロシアはエネルギーインフラの支配というカードに加えて、2月24日以降失われてきた外交舞台でのプレゼンスを再構築し、強い交渉カードをもう一枚得ることに繋がることになります。

まだまだ議論は平行線で、なかなかアメリカとロシアの間で合意ができるような状況ではないようですが、ウクライナの今後を話しながらも、その場にウクライナを呼ばないという傾向は今後、さらに強まっていると思われます。

ではロシアの立場は強くなったか?と尋ねられたら、恐らくNOだと思われます。

それは自国の勢力圏と見なしていた旧ソ連諸国(スタン系)からのロシア批判が強化されてきており、必ずしもロシアの企みを後ろから支えるという機運は生じないように見えるからです。

今週、ASEAN拡大国防相会合がカンボジアで開催されていることに対抗してか、アルメニアでCSTOの会合が開かれ、旧ソ連6か国の首脳が集ったようですが、その場でホスト国であるアルメニアのパシニャン首相から痛烈なロシア非難が行われプーチン大統領も対応に苦慮したというエピソードがあったようです。そこに以前よりロシアと距離を取るカザフスタンやトルクメニスタンなども、ロシアに厳しい姿勢で臨んでいることから、ロシアとしても旧ソ連諸国間の結束の弱まりを感じざるを得ない状況になっています。

この記事の著者・島田久仁彦さんのメルマガ

初月無料で読む

 

print
いま読まれてます

  • 激怒のアメリカ。停戦探る米露会談にウクライナが呼ばれない理由
    この記事が気に入ったら
    いいね!しよう
    MAG2 NEWSの最新情報をお届け