中国抗議デモの発端、新疆ウイグル「タワマン大量焼死火災」が習近平と中共を追い詰める

2022.12.12
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新疆ウイグル自治区のウルムチで発生した火災が発端となり、中国全土はおろか世界にまで広がりを見せた習近平政権への抗議デモ。現在は表向き収束し社会生活は平静を取り戻しましたが、異例の3期目政権をスタートさせた習近平国家主席は、自身の権力を盤石なものにすることができるのでしょうか。今回、政治ジャーナリストで報道キャスターとしても活躍する清水克彦さんが、習近平氏が「皇帝」として君臨し続けられるのか否かを考察しています。

清水克彦(しみず・かつひこ)プロフィール
政治・教育ジャーナリスト/大妻女子大学非常勤講師。愛媛県今治市生まれ。早稲田大学大学院公共経営研究科修了。京都大学大学院法学研究科博士後期課程単位取得期退学。文化放送入社後、政治・外信記者。アメリカ留学後、キャスター、報道ワイド番組チーフプロデューサーなどを歴任。
著書は『日本有事』(集英社インターナショナル新書)、『台湾有事』『安倍政権の罠』(ともに平凡社新書)、『ラジオ記者、走る』(新潮新書)、『ゼレンスキー勇気の言葉100』(ワニブックス)、『頭のいい子が育つパパの習慣』(PHP文庫)ほか多数。

江沢民元国家主席の追悼を利用した習近平指導部

12月1日、中国の各メディアは、前日死去した江沢民元国家主席(以降、江沢民と表記)の足跡を振り返る追悼ムード一色となった。

「人民日報」など各紙の紙面はモノクロ。中国人が持つ全てのスマートフォンは、白黒の画面に変わり、アリババなどネットショッピングのサイトまでモノクロで見なくてはならなくなった。

極めつけは、12月6日、北京の人民大会堂で営まれた江沢民の追悼集会だ。弔辞を述べた習近平国家主席(総書記。以降、習近平と表記)は、江沢民を「卓越した指導者」と持ち上げたうえで、「動乱に反対し、社会主義を守った」と強調してみせた。

つまり、「国民よ、江沢民の死に対して喪に服せ」「この機に乗じて抗議行動を拡大させるなど到底許されない」と強烈なメッセージを投げかけたのである。

11月26日以降、北京や上海だけでなく中国各地へと拡大した「ゼロコロナ」政策に対する抗議行動。どうしても思い起こされるのは、1989年6月に起きた天安門事件だ。

天安門事件は、胡耀邦元総書記の追悼集会がきっかけとなった。今月に入ってからの習近平指導部の動きは、「同じ轍は踏まない」「追悼の名の下に、何としてでも抗議行動を鎮静化させる」という強い意思を色濃く反映したものとなった。

抗議行動の発端は、ウイグルという因縁の地

今回の抗議行動は、元はと言えば、様々なメディアで報じられてきたとおり、11月24日、新疆ウイグル自治区のウルムチで起こったタワーマンション火災が原因だ。

火災では、逃げ遅れた住民たちが多数犠牲となったが、住民たちが拡散させたSNS、WeChat(微信)を通じて明らかになってきたのが、習近平指導部による行き過ぎた「ゼロコロナ」政策によって、避難と消火活動に支障をきたしたという事実であった。

新疆ウイグル自治区と言えば、イスラム教徒が多い地域だ。中国の歴代の指導部は、ウイグル族の間で独立の機運が高まるのを阻止するため、拷問や虐殺によって、その精神を弾圧し、「天網」と呼ばれる監視カメラで住民の行動を追跡して収容所に送り込み、イスラム文化やウイグルの言語まで捨てさせてきた因縁の地である。

そのような地域で起きた火災による悲劇は、「ゼロコロナ」政策に辟易としている市民、自由に声も上げられないに対する市民たちからの怒りを増幅させ、それが、「習近平下退!」(習近平、辞めろ!)という波となって、中国全土、そして東京やニューヨークなど海外へと拡大したのだ。

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