数々の不測の事態に対応する力、それはどうやって培われていくのでしょうか。今回のメルマガ『致知出版社の「人間力メルマガ」』では、定年までの45年間、無事故無違反を貫いた元国際線機長のインタビューから危機管理対応について紹介しています。
元国際線機長が教える危機管理対応論
悪天、機内トラブル、急病人……。元無国際線機長の横田友宏さんは、数々の不測の事態に直面しつつも、定年までの45年間、無事故・無違反を貫いてこられました。
航空の世界を究めようと努力を続け、現在は桜美林大学航空・マネジメント学群で教鞭をふるう横田さんのお話は、広くビジネスにも通ずる実践的な視点に満ちています。
横田 「機械トラブルに何度も見舞われましたけど、なぜか私が遭遇するのはチェックリストに該当しないものばっかりなんです。
よく覚えているのが、真冬のモスクワへのフライトです。セカンドオフィサーとして後部座席にいたんですが、空港に着く前、コックピットの窓ガラスの内側一面に霜が張って、全く外が見えなくなってしまいました。
何と窓ガラスのヒーターがすべて故障しています。緊急時のチェックリストはあるのですが、その確認事項をすべて実施しても、全く回復しません。
このままでは大勢の乗客の命が危ない。とにかく氷を溶かそうと、熱いお湯を染み込ませたおしぼりで拭きました。ところが外は零下50度、お湯も瞬時に凍りつき、事態はより悪化してしまった」
──考えただけで恐ろしいです
横田 「それでも、人間は不思議なもので、本当に追い詰められるとふっと思い出すんです。あれはいつだったか、緊急脱出訓練の際に耳にした教官のひと言でした。
『水消火器の中の水は、不凍液だから飲めませんよ』
そこでピンと来ました。これなら氷が溶けるんじゃないか。CAの女性に指示しても間に合いそうになかったので、私がコックピットを飛び出して取りに行き、おしぼりに消火液を出して拭きました。幸い、氷はすべて溶けました」
──鋭い閃きに恵まれましたね
横田 「振り返ると、常日頃『どうしたら安全に飛べるだろう、事故を起こさず済むだろう』と必死で考え続けていました。だから何気なく聞いたことが心の片隅に引っ掛かっていたんでしょう」
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