プーチンの痛恨。ウクライナ侵攻で壊滅的に低下したロシアの影響力

 

アメリカの得と損

アメリカは、どうでしょうか?これは、得と損があるでしょう。得とは何でしょうか?主に欧州との関係です。

トランプ時代、アメリカと欧州の関係は、かなり悪化していました。トランプが、「事実上アメリカ一国が、他のNATO加盟国29か国を守っている。不公平だ」と主張していたからです。それで、トランプは、欧州でとても嫌われていました。

今回、ウクライナ侵攻が起こり、アメリカと欧州の結束は大いに強まりました。さらに、欧州がロシアからのエネルギー輸入を止めたことも、アメリカに追い風です。欧州は、アメリカ産の液化天然ガス(LNG)を大量に輸入しはじめたからです。

では、損は何でしょうか?ロシアは、原油生産世界3位、天然ガス生産世界2位、小麦輸出世界1の「エネルギー、食糧超大国」です。この国が戦争を開始したことで、世界のエネルギー価格、食糧価格が暴騰しました。それで世界的インフレが起こった。アメリカでも歴史的なインフレ(IMFによると2022年は8.05%)になり、バイデン政権を苦しめました。

損といえば、アメリカは「大戦略的損」もしています。それは、米中覇権戦争の最中に、ロシアが中国に接近したこと。20年前から、「アメリカの敵は中国だけ」と主張しつづけてきたミアシャイマーの憤りは、ここにあります。

金より安全を選んだ欧州

次に欧州は、どうでしょうか?欧州の動き、プーチンには、驚きだったでしょう。

ウクライナ侵攻前、欧州一の大国ドイツは、天然ガスの55%をロシアから輸入していました。それでプーチンは、「欧州は、ロシアに強い制裁をできない」と予想していた。

ところが、ドイツをはじめとする欧州は、ロシアに対し遠慮なく厳しい制裁を科してきた。そして、たとえばドイツは、ここ1年でロシアへのエネルギー依存をほぼゼロにすることに成功しています。ガスは、ノルウェー、アメリカ、アラブ首長国連邦などからの輸入に切り替えました。

しかし、パイプラインで直接くるロシア産ガスに比べ、液化天然ガスは高い。それで、欧州のエネルギー価格は暴騰しました。欧州のほとんどの国々は、それでも、ロシアとの関係を切る選択をしました。

私が常々書いていることがあります。それは、

  • 主な国益は、金儲け(経済)と安全である
  • しかし、金儲けと安全、どちらが大事かといえば安全である

です。欧州は2022年、「安いエネルギー」と「安全保障上の脅威ロシアを止めること」の選択を迫られました。そして、「ロシアを止めること」を選んだのです。

しかし、「金か安全か」というジレンマは、今もつづいていて、欧州のリーダーたちを悩ませています。

print
いま読まれてます

  • プーチンの痛恨。ウクライナ侵攻で壊滅的に低下したロシアの影響力
    この記事が気に入ったら
    いいね!しよう
    MAG2 NEWSの最新情報をお届け