全メディアが沈黙。ジャニー喜多川「性加害」問題を報じぬニッポンの異常

 

伊藤詩織氏が訴えていた性被害者の生きづらさ

アザー氏はジャニーズ事務所の話を聞こうと本社に乗り込んだが、取材を拒否された。街を歩いている人にジャニー氏の性加害の話をしても「亡くなった人のことに触れたくない」などと冷めた反応が多かった。アザー氏の考えと日本社会の常識は甚だしく乖離しているように見える。

英国では、サヴィル事件の後、被害者支援制度が充実し、警察や司法の取り組みも強化された。日本にも相談窓口があるが、まだまだ支援体制は不十分だ。性的な問題について相談をしにくい社会的な雰囲気があり、被害を受けたと声を上げることが難しい。

ジャーナリスト、伊藤詩織氏が自らの体験をもとに性被害者の生きづらさを訴えていたのを思い出す。彼女が被害にあった準強制性交事件で、警視庁高輪署が安倍首相と親しいTBSの元ワシントン支局長を逮捕する直前、警視庁刑事部長のツルの一声で取りやめになったことがあった。

日本の政治と警察が、性暴力の撲滅に対していかに消極的であるかを痛感させられた一件だが、社会全体の関心はいまひとつだった。安倍政権に忖度してマスメディアのほとんどが沈黙を続けたのが、その原因の一つだろう。

アザー氏は番組の最後をこう締めくくった。

「加害者の名を冠する会社は現在も搾取の歴史を認めることなくそびえたっています。これは日本社会が見て見ぬふりをしている結果です。今回、警察をはじめとして、芸能リポーターや音楽関係者、各種メディアにも取材を依頼し、すべて拒否されました。…子どもを守る必要性は十分に認知されていません。それが何よりも残念なことです」

統一教会の反LGBT運動を多くの自民党議員らが歓迎したことにも見られるように、日本社会においては男女の役割を明確に分ける伝統的価値観が根強く、それに反するものは排斥される傾向がある。奇妙なことだが、LGBTに対して嫌悪感を抱く人がいるのと同様に、性被害者に対する差別感情のようなものもこの社会には存在するらしい。

だが、グローバルな現代においては、日本だけは別だというわけにはいかない。この問題に対する後進性を変えるため政治にできることは法整備、教育、啓蒙活動などいくらでもある。

メディアが沈黙している限り、権力を持った政治家は動こうとしないだろう。世襲をよしとしている彼らこそが“時代遅れ”を象徴しているからである。

この記事の著者・新恭さんのメルマガ

初月無料で読む

image by: Ned Snowman / Shutterstock.com

新恭(あらたきょう)この著者の記事一覧

記者クラブを通した官とメディアの共同体がこの国の情報空間を歪めている。その実態を抉り出し、新聞記事の細部に宿る官製情報のウソを暴くとともに、官とメディアの構造改革を提言したい。

有料メルマガ好評配信中

  初月無料お試し登録はこちらから  

この記事が気に入ったら登録!しよう 『 国家権力&メディア一刀両断 』

【著者】 新恭(あらたきょう) 【月額】 初月無料!月額880円(税込) 【発行周期】 毎週 木曜日(祝祭日・年末年始を除く) 発行予定

print
いま読まれてます

  • 全メディアが沈黙。ジャニー喜多川「性加害」問題を報じぬニッポンの異常
    この記事が気に入ったら
    いいね!しよう
    MAG2 NEWSの最新情報をお届け