中国の圧勝。「資源戦争」を制した後に習近平が奪うアメリカの覇権

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環境問題対策の一環として、アメリカが国を挙げて力を入れる電気自動車への置き換え。しかしこの流れが、中国を利することになってしまいかねないようです。今回の無料メルマガ『田中宇の国際ニュース解説』では国際情勢解説者の田中宇(たなか さかい)さんが、EVのメインとなるバッテリーの材料を巡り展開される、中国サイドが仕掛ける「資源戦争」について詳説。さらにアメリカの「米中分離策」が習近平政権にとって好都合である理由を解説しています。

資源戦争で中国が米国を倒す

米政府が4月12日、自動車メーカーに対し、これから10年かけて二酸化炭素の大幅な排出削減を義務づけ、ガソリンやディーゼルのエンジンの内燃自動車の生産を妨害し、電気自動車の生産を事実上義務づけていく「温暖化対策」の新政策を打ち出した。

電気自動車で最重要な部品は製造費の3~4割を占めるバッテリーで、そこではリチウムやマンガン、ニッケル、コバルト、希土類などの鉱物が不可欠な材料だ。米国や同盟諸国が「温暖化対策」をやるほど、これらの鉱物資源が重要になる。

それを見越したかのように最近、米国側の敵である中国が、他の非米諸国を誘い、リチウムなど重要な鉱物を非米側で専有し、米国側に渡さないようにする資源戦争の様相を強めている。

“This Is Industrial Suicide”: Biden’s EV Plan Could Be Key To China’s Global Economic Dominance

4月22日には、世界第2位のリチウム生産量を持つ南米のチリが、リチウム生産の事業を国営化していくことを決めた。チリのリチウムはこれまで米国企業アルベマールなどが握ってきたが、今の契約が切れるとともに国営化する。今のところ国営化は2030年以降だが、前倒しもありうる。

中国はバッテリーの技術が高くて生産量が多く、リチウムの世界的な使用国でもある。チリは最近中国と親しく、習近平がチリに入れ知恵してリチウム生産を国営化し、非米側が米国側を資源戦争で倒すシナリオを進めている可能性がある。

Chile Stuns Markets And EV Makers By Nationalizing Lithium Industry Overnight

4月13日には、チリなどと並んで世界的なリチウム埋蔵量を持つアフガニスタンで、中国企業(Gochin)がリチウム鉱山の開発権を得る見返りに、アフガン南北を結ぶ100億ドルの道路整備の事業を行う契約を交渉していることが報じられた。

中国企業がアフガンの資源を狙うこの手の話は従来からいくつもあり、今回の話が成功するとは限らない。しかし、すでに米国が占領失敗でアフガンの支配と利権を手放しているので、代わりにアフガンの再建や開発を手がけるのは中国や、露イラン印パなど非米側しかいない。

Chinese Company Gochin Plans $10 Billion Investment in Afghanistan’s Lithium Mines

チリやアフガンでのリチウムに関する展開が、米国側による資源類の独占を打破するための中国主導の非米側の資源戦争であるという確証はない。

だが、米国側が「(実は不存在なのに強行している間抜けな)温暖化対策」として、電気自動車のバッテリーでリチウムを必要としているし、中国がリチウムの生産や流通で世界的に大きな力を持っているのも事実だ。

中国から見ると、リチウムは米国側が抱える弱点の一つだ。米国側から敵視される中国が、リチウムを使って反撃すると考えるのは自然なことだ。

● The Real Reason Behind China’s $10 Billion Offer To Taliban For Lithium

中国がチリなど非米側のリチウム生産国とこっそり結託し、米国側をリチウム不足に陥らせることは比較的容易だ。希土類など他の鉱物でも、中国は以前から敵性諸国に対して資源戦争をやってきた。

今回、中国が非米側を動かし、米国側を経済的に潰すために、リチウムを使った資源戦争を開始している可能性は十分にある。リチウム以外の鉱物も動員しているのでないか。近いうちにもっと顕在的な事態になるかもしれない。要注目だ。

US-China Decoupling Will Force Europe To Choose Sides Sooner Rather Than Later

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