人気も人望もなし。それでも“ドリル優子”が初の女性総理を目指すべき理由

2023.09.22
 

茂木敏充にはかけられなかった「財務相の呪い」

今回の岸田人事はどうか。まず、留任となった茂木幹事長だ。幹事長の続投は、人事の日程が迫ってきてもなかなか決まらなかった。首相に対抗しうる強大な権力を持つ幹事長に、「ポスト岸田」の有力候補である茂木氏を続投させることのリスクを、首相が自覚し、悩み続けたのだという。

実際、茂木氏は「ポスト岸田」への意欲を隠さない。岸田首相が打ち出した「異次元の少子化対策」について、茂木氏は児童手当の所得制限撤廃に踏み込む発言をした。また、8月に打ち出した経済対策で、首相が言及していない補正予算編成の考えを示した。いずれも、首相から主導権を奪おうとしたといわれても仕方がない言動だ。今後も、茂木氏の勝手な振る舞いが続けば、政権の基盤を揺るがすことになりかねない。

一方、茂木氏を財務相に起用するという案があった。将来の政敵になり得る者を閣内に取り込むという意味で有効な策だ。だが、それだけではない。財務相は、首相を狙う政治家にとって「鬼門」のポジションだからだ。

自民党で、財務相(および旧蔵相)から直接首相になった政治家は、戦後一人もいない。財務相は、常に族議員やその背後の業界からの予算獲得の圧力と、財政再建という難しい課題の間で板挟みとなる。そして、国民から不人気の増税を検討することになる。次期首相候補としての支持を失ってしまうのだ。

ただし、民主党政権の財務相、菅直人氏、野田佳彦氏は財務相から直接首相に就任した。それは、財源の確保に失敗して財政が悪化し、マニフェストの政策を撤回し、公約にない消費増税に取り組まねばならない混乱の中で財務相が首相に就任した例外的事例といえる。実際、菅、野田両氏は、どちらも消費増税が命取りになり短命政権に終わっている。要するに、財務相は政治生命を削る、難しい仕事だということだ。

今年8月末に各省庁の概算要求が締め切られた。その総額は約114兆円と過去最大を更新した。財政の膨張に歯止めがかからない状況だ。その一方で、岸田内閣は今年の「骨太の方針」に「歳出構造を平時に戻していく」と明記した。現状と真逆ともいえる方針を示しているのだ。

毎年1兆円ずつ増加するとされる社会保障関連予算や、国債の元利払いなど構造的な歳出増に加えて、異次元の少子化対策、物価高への対応、行政のデジタル化をはじめ幅広い分野で、予算が増加している。さらに、5年間で2倍近くに増やす方針の防衛費の増加がある。

コロナ禍で、さまざまな救済策が打たれて以降、財政のタガが外れてしまった。20年度以降、新規国債の発行は年50兆-100兆円に膨張した。その残高も1000兆円を超えた。歳出増の圧力は増える一方で、それを抑えることは政治的に困難だ。そうなると、増税で国民に負担させるしかなくなる。

茂木氏が財務相になれば、間違いなく国民からの批判に晒される。ポスト岸田としての支持も失ってしまうリスクが高い。岸田首相が茂木氏を内閣の運命と一蓮托生の存在に抑え込みたいならば、財務相起用は妙手だったかもしれないが、それはなかった。

麻生副総裁から岸田首相への進言があったという。岸田内閣は、第2-4派閥の領袖である麻生氏、茂木氏、首相の「三頭政治」によって、政権運営の方向性を決めてきた。政権基盤の安定には、その枠組みを維持したほうがいいという進言だ。

加えて、麻生副総裁が、財務省への強力な影響力を失いたくなかった。鈴木俊一財務相は、副総理の義弟だ。副総理は財務相在任3205日で戦後最長を誇る。鈴木財務相はお飾りで、麻生副総理が実質的な財務相にみえる。茂木氏に譲りたくなかったのではないだろうか。

要するに、岸田首相は政権基盤の安定を優先させて、茂木幹事長を留任させた。だが、自民党の人事の鉄則「政敵は閣内に、味方は党に」に反している。今後も、茂木幹事長が首相の見せ場を奪うスタンドプレイを続けるようだと、政権基盤が不安定化しかねない。

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