人気も人望もなし。それでも“ドリル優子”が初の女性総理を目指すべき理由

2023.09.22
 

「我々の使命は小渕優子内閣を作ること」

小渕氏は、政治家として修羅場の経験値も高いとは言えない。高市氏、野田氏は初の女性首相を目指し総裁選を闘っている。特に、野田氏は「郵政造反議員」として05年の郵政解散総選挙において小泉首相に反旗を翻し、選挙区に「刺客候補」を立てられる苦境を生き残った。

それに対して、小渕氏は元首相の令嬢として、政界の先輩から可愛がられた。最年少の閣僚起用や、経産相への抜擢は、能力や業績の評価ではなく、先輩の寵愛を受け続けた結果だ。

今回の人事でも、小渕氏の抜擢は、「参院のドン」と呼ばれた故・青木幹雄氏の「遺言」に基づくものだという。小渕恵三内閣の官房長官で、茂木派の長老として隠然たる影響力があった青木氏は生前「我々の使命は小渕優子内閣を作ることだ」と公言していた。

亡くなる前、青木氏は茂木幹事長の小渕氏への交代を求めていたという。小渕氏に茂木派の実権を移し、後に派閥の総裁候補にしたかったのだ。

そして、森喜朗元首相がその「遺志」を後押しした。青木氏は森内閣の生みの親であり、その恩義がある。また、「安倍派の仕切り役」を辞任する森氏は、小渕氏を台頭させて茂木派の分裂を狙ったという指摘がある。

今回の小渕氏の選対委員長への起用も、長老の寵愛による抜擢である。実力でもぎ取った要職と毛頭言えないのが、小渕氏の政治家としての「ひ弱さ」だ。

岸田首相は、故・青木氏、森氏の意向は組みつつも、茂木幹事長を交代させなかった。小渕氏には「選挙」を任せた。最も結果が目に見えるものである上に「政治家は選挙に落ちたらタダの人」という言葉があるように、その結果責任をシビアに問われる難しい職務だ。

岸田首相自身、何度も総裁選に挑戦して煮え湯を飲まされるような経験をした後に、首相になった。世襲議員といえども、権力は自らの手で奪い取らねばならないことを、小渕氏に示した。

しかし、小渕氏が国民に不人気な政治家であり、長老の寵愛で要職を与えられたにすぎなくても、それには重要な意義がある。日本政治における女性の社会進出を次の段階に進める可能性があるものだからだ。

小渕氏の起用が、従来の小池氏、野田氏、高市氏など女性政治家の要職への抜擢と一線を画しているからだ。彼女たちは、自民党政権の人気取りのパフォーマンスを求められた起用だった。後に、彼女らは与えられた職務で実績を上げることで実力者となった。だが、自ら仲間を集い、若手の面倒を見て汗をかき、派閥を率いて自らの力で権力を勝ち得ようとはしてこなかった。彼女らは「無派閥」で総裁選に出た。神輿として担がれることで初の女性首相となることを目指した。

これに対して、小渕氏は神輿として担がれるには人気も人望もない。だが、長老から与えられた機会ではあるが、自ら汗をかき、泥をかぶって仕事をし、成果を出せば、従来の女性政治家にはない「数の力」を得て、権力を奪うことができるのだ。

選対委員長は、一人一人の候補者の選挙の勝利に汗をかけば、これほど感謝され、人望を得る好機はない。所属派閥である茂木派だけでなく、支持を他派閥にも広げることができる。

自民党は2030年までに国政の女性議員に比率を35%にする公約を掲げている。だが、今回の人事で副大臣・政務官に起用された女性議員がゼロだった。要は、若手の女性議員が少なすぎるのだ。小渕氏が選対委員長として公約実現に向けて、女性候補者を育成し、立候補させ、当選させて、酷い状況を打開すれば、評価を高められる。「小渕ガールズ」とも呼ぶべき自らの権力基盤となるグループを形成できるかもしれない。茂木派の後継者として認められ「小渕派」を率いることになるかもしれない。

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