ウクライナ戦争に終止符か?ロシア外相発言から見えた「停戦のヒント」

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欧米諸国からの強力な支援を受け反転攻勢を続けるウクライナと、攻撃の手を緩めることのないロシア。先日開かれた国連安保理の会合でも両国は非難の応酬を繰り広げましたが、戦争はこのまま泥沼化の一途を辿るしかないのでしょうか。今回のメルマガ『最後の調停官 島田久仁彦の『無敵の交渉・コミュニケーション術』』では元国連紛争調停官の島田さんが、「停戦を実現する可能性を諦めていない」として、国連でのラブロフ露外相の言葉を引きつつその理由を解説。さらにこれから2~3週間がその「ヤマ」であるとの見方を記しています。

ウクライナ戦争停戦のラストチャンスか。露外相の意外な国連での発言

2022年2月24日に始まったロシアによるウクライナ侵攻直後、この戦いは数日のうちにロシアの圧勝で終わり、ロシアの条件下での停戦合意ができるという見込みが強く存在しました。

しかし、実際には今日に至るまで、およそ580日強にわたって両国間での戦闘は続き、ロシアによる一方的な支配地域を巡る攻防は一進一退の状況で、ロシア・ウクライナの当事者たちも、ウクライナの背後にいる欧米諸国とその仲間たちも、この戦争の長期化を見込んだ対応を取り始めています。

欧米諸国とその仲間たちから膨大な支援を受け、ロシアに対する反転攻勢を強め、【2014年の国境線まで領土を回復する】ことを目標に掲げているウクライナのゼレンスキー大統領は、支援を受け、その支援がウクライナの生死を左右する命綱であるがゆえに、ロシアに対して振り上げ、国際社会を味方につけるために掲げた拳を下げるチャンスを逸しています。

NATO加盟を希望し、今夏開催されたNATO首脳会談でNATO加盟に向けた動きが始まるものとの期待は、NATO諸国の首脳たちが抱く「ロシアとの直接的な戦争に巻き込まれたくはない」という堅い意志に阻まれ、しばらくは加盟申請に関する議論さえ始められない始末です。

NATOからは「戦闘中の国家の加盟申請を受けることはできないため、状況が落ち着くまでは議論は開始しない」という回答が寄せられましたが、それは実質的にウクライナ政府にロシアとの停戦協議を持つことを要求すると理解され、ゼレンスキー大統領が掲げる「全土奪還」という究極目標の達成に向けた動きとは相反する内容となるため、ウクライナは大きなジレンマに陥っていると思われます。

「現時点ではロシアと停戦協議のテーブルに就くことは不可能」という立場を表明し、欧米諸国とその仲間たちから供与された最新鋭の兵器(例:英国からのストームシャドーミサイル)を投入して、ロシア軍に占領されているウクライナ国内の都市にあるロシア軍施設や、ロシア国内の空軍基地などへの攻撃を激化させる行動に打って出ています。

その狙いは「できるだけ早期に、ウクライナにとってできるだけ有利な条件で停戦に持ち込むための政治的な土台を確保する」ことと考えられます。

士気を保つためと、欧米諸国とその仲間たちからの継続的な支援の確保のために、表立っては非常に高い軍事的な目標を掲げざるを得ない状況になっているものの、実際にはかなり状況は苦しく、欧米諸国とその仲間たちからの支援の途絶は、ウクライナの存続の可否(生死)を決定づけることに繋がるため、ロシアに対する反転攻勢は継続しつつも、現時点では「完全なるvictoryの追求」や「2014年、または1991年時点の国境ラインまでの回復」といった長期的な目標の追求よりも、「まずは一旦、停戦する環境を整えること」に政策的・戦略的な優先順位が移っているように見えます。

その背後には、来秋に大統領選挙と議会選挙を控えるバイデン政権とアメリカ連邦議会からの圧力が存在し、「現実的な対応を早急に望む」という、先週のワシントンDC訪問時にバイデン大統領や議会関係者からゼレンスキー大統領に伝えられた意向とも重なるものと考えられます。

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