米英がイエメン「フーシ派」攻撃開始。崩れる中東のバランスと進む世界の分断

 

ウクライナ侵攻によって否定された「ありえない」状況

またイスラエルとハマスの問題についても、人道的な観点から即時停戦と迅速な人道支援の必要性に触れつつも、事態からは距離を置き、飛び火を非常に警戒する安全保障戦略を取っています。

これはまた“ありえない”と妄信的に信じられていた状況から距離を置くことも意味します。

例えば【主権国家が他国に対して武力侵攻するというのは、現在の世界においてはあり得ない】という幻想は、約2年前のロシアによるウクライナ侵攻によって否定されました。

そしてロシア軍がウクライナ全域を対象に攻撃を仕掛け、ウクライナを攻撃しつつ、その背後にいるNATOに対して「ロシア、そしてロシアの裏庭に構うな」というメッセージを突き付け、国際社会の分断を鮮明化しています。

ロシアによるウクライナ侵攻以降、度々、ロシアが核兵器を使用する可能性(核使用の脅威)についての懸念が述べられ、プーチン大統領とその取り巻きも核を脅しとして使っていますが、実際に核兵器を使用するシナリオは考えづらく、ロシアの核兵器使用のドクトリンに挙げられる“ロシアおよびその国民に対する差し迫った安全保障上の脅威が引き起こされる場合”が現実になる以外は起き得ないと考えていますが、これも“ありえない”とは言い切れないかもしれません。

現在、ロシア軍がウクライナ戦線において選択している戦略は、ウクライナ東部の支配地域の拡大・維持というよりは、大規模かつ同時発生的なミサイル攻撃をウクライナの大都市に対して行うことで、ウクライナがNATO加盟国、特にアメリカから供与されたパトリオットミサイルなどの防空迎撃ミサイルをどんどん使わせ、在庫を枯渇させることを目的にしているように見えます。

真偽のほどは分かりませんが、ウクライナ軍の司令官の表現を借りれば「あと数回分の大規模ミサイル攻撃に対応する分の迎撃ミサイルしかない」状態にあり、NATO諸国からの支援の先細りと遅延により、さらに状況が悪化する恐れがあります。

また分析によると、ロシアが極超音速ミサイル・キンジャールを含む、弾道ミサイルを対ウクライナ攻撃に用いるケースが増えていますが、弾道ミサイル迎撃システムはウクライナでは機能しておらず、実際にウクライナに着弾し、インフラを次々と破壊する事態に陥っているようです。

そのロシアもミサイルが枯渇しているとの楽観的な報道が時折なされていますが、実際には欧米諸国とその仲間たちによる厳しい制裁にも関わらず、地上戦における戦況の停滞状況を活かし、弾道ミサイルの量産体制を強化して来るべき一斉攻撃に備えていようです。そこに北朝鮮やイランなどからの“つなぎ”支援を得てさらに時間稼ぎをしていますし、“悪魔の商人”としてのトルコも(トルコの皆さん、ごめんなさい)、NATO加盟国としてウクライナに無人ドローンを供与してロシア攻撃に投入している半面、ロシアにも武器を供与して、しっかりと利益を得ています。

アメリカ政府における対ウクライナ支援のための資金が枯渇し、欧州各国も対ウクライナ支援を控え始める中、ロシアは苦境から回復し、弾道ミサイルを量産して攻撃態勢を整え始めるという現状が存在することで、もしNATOがウクライナを見捨てるような事態になれば、ウクライナの存在は危ぶまれますし、その波が一気にユーラシアの近隣諸国に押し寄せる可能性が出てきます。

この記事の著者・島田久仁彦さんのメルマガ

初月無料で読む

print

  • 米英がイエメン「フーシ派」攻撃開始。崩れる中東のバランスと進む世界の分断
    この記事が気に入ったら
    いいね!しよう
    MAG2 NEWSの最新情報をお届け