米英がイエメン「フーシ派」攻撃開始。崩れる中東のバランスと進む世界の分断

 

顕在化する戦争拡大に対する抑止力の不在

このような危機に対して、口は出し、懸念は表明するものの、実質的には何もコミットしない欧州各国とアメリカの姿勢が浮き彫りになり、戦争拡大に対する抑止力が不在であることが顕在化してきているように感じます。

イスラエルとの関係改善と経済的・技術的な利益を得たいUAEなどのアブラハム合意当事国と合意が近いとされていたサウジアラビア王国は、あまりイスラエルを刺激したいとは思っていませんが、サウジアラビア王国の場合、原則言論の自由を保障していないことで民衆のデモを規制していても、パレスチナとの連帯を表明しないと、いつアラブの春のような民衆蜂起が起きるか分からなくなるため、ハマスやヒズボラ、そして最近は関係改善に努めているイランとの距離感が悩みの種とのことです。

そして中東諸国にとってさらに悩ましいのが、アメリカや欧州各国との距離感です。サウジアラビア王国やUAEなどは長くアメリカとの同盟関係を結んできましたが、アメリカにとっての中東諸国の重要性が低下したことを受け、両国ともロシアや中国との関係を深め、軍事・経済戦略パートナーシップ協定を締結しています。

10月7日のハマスによる同時攻撃までは、アメリカの力添えを軸に、アブラハム合意の拡大を進めてきましたが、イスラエル・パレスチナ問題が再燃し、ガザの悲劇が悪化していく中、地域において反米・英・仏の意見が強まってきています。

特に「イスラエルの建国を許し、アラビア半島を滅茶苦茶に蹂躙したのは英仏の嘘に端を発し、その後、米国によるイスラエルへの過度の肩入れによって、パレスチナ人は土地や権利を奪われただけでなく、人質に取られてしまった」という認識が再燃し、一触即発の状態にまで悪化しているようです。

その一触即発の“事態”となり得るのが、ヒズボラの幹部暗殺事案へのイスラエルの関与と、比較的穏健的なカタールの憤怒、イラン革命防衛隊幹部の暗殺に起因するイランによる対イスラエル報復宣言、さらにはISの犯行とされている故ソレイマニ司令官(イラン革命防衛隊)追悼イベントでのテロ攻撃など、アラブ諸国とイランの中での怒りのレベルが最高潮に達している状況です。

イスラエルが一向に退く素振りを見せず、かつハマスの壊滅を目的に掲げてガザにおける殺戮を繰り返しながら、ヒズボラや他の親イラン勢力の掃討まで行おうとしていることには、非常に危機感を感じていますし、ヒズボラを嫌っているアメリカ政府でさえ、イスラエル・ハマスの戦争が隣国に飛び火する事態を何とか避けたいと願い、イスラエルに自制を強く迫る状況に発展しています。

アメリカ国務省やペンタゴンの関係者によると、アメリカ政府としては紛争の拡大の抑止のために空母攻撃群を東地中海や紅海近辺に展開するが、NATOの核(コア)としてウクライナ対応も行う必要や、高まり続ける台湾海峡に対する中国の威嚇への対応も必要であるため、中東に割ける兵力はあまり期待できないと考えているようです。

その手詰まり感をNATOの欧州各国も感じているようで、今、東地中海での案件が南欧諸国に飛び火したり、トルコとギリシャの領海争議を再燃させたりすることを何とか避けるために、イスラエルとハマス、そしてアラブ諸国に対して即時停戦と人道支援の迅速な実施と拡大を求めてプレッシャーをかけています。残念ながら、奏功していませんが。

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