米英がイエメン「フーシ派」攻撃開始。崩れる中東のバランスと進む世界の分断

 

ウクライナで拡大する「反ゼレンスキー」の声

ウクライナ国内に目を向けると、ゼレンスキー大統領と統合参謀本部議長のザルジーニ氏の確執が目立ってきており、一旦延期された大統領選挙をやはりこの4月に実施すべきとの声も高まる事態に陥っています。

NATOからの支援の先細りを懸念してか、ゼレンスキー大統領が国外にいる18歳から60歳の成人男子をウクライナに呼び戻して徴兵するという方針を示したことで、一気にゼレンスキー大統領に対する反対の声が拡大し、国内における政治的な支持基盤が脆弱になり始めているという分析結果も出てきています。

その背景には、もちろん、ロシアによる情報戦と政治工作も存在するでしょうが、インフラを徹底的に破壊し、補給路を断ち、国内でも揺さぶりをかけるという厳しい心理戦がウクライナ国民に対して行われているようです。

これまで自国が掲げる絶対的なルールである基本的人権の尊重や汚職の撲滅といった規範の不履行には目を瞑り、ロシア憎しでウクライナの後ろ盾となり、おまけにEUは支援が遅延することへの非難をかわす狙いでウクライナのEU加盟交渉の開始を提示しましたが、今、多方面から欧米諸国の勝手なダブルスタンダードが指摘され始め、次第に他国の案件から手を退き、自国ファーストの内向きの政治に傾く傾向が顕著になってきています。それが欧州各国で表出する右派の躍進と国家主義体制の構築として見られるようになってきています。

その影響を喰らっているのが、イスラエルとハマスの戦いとガザにおける悲劇への対応の遅れと矛盾でしょう。

アメリカ政府は今秋に予定されている大統領選挙および議会選挙への影響を考慮して、国内のユダヤ人層の支持固めのためにイスラエル寄りの姿勢を鮮明にしていますが、その思惑は、アメリカの言うことを聞かずに暴走するイスラエルのネタニエフ首相と政権の存在と、アメリカ国内のユダヤ人若年層による政府批判とパレスチナ支持の表明と拡大により、崩れ去りそうになっています。

まさに国内において政府が用いるダブルスタンダードを非難され、民主党内部でも左派が公然とバイデン政権を非難し始め、さらに国際社会においてアメリカのリーダーシップと信憑性が非難に晒されている現状を受けて、バイデン政権の対イスラエル支援に変化の兆しが見られるようになってきています。

今でも基本的にはPro-イスラエルの姿勢は堅持していますが、今週アラブ諸国とイスラエルを訪問しているブリンケン国務長官もイスラエルに対して苦言を呈し、過剰な防衛はイスラエルを崩壊させるかもしれないと懸念を表明しつつ、「アメリカ政府はこれ以上、イスラエルを支持できない可能性がある」旨、ネタニエフ首相に伝えたらしいという情報も入ってきています。

そして、イスラエルは沈黙していますが、今週起きたヒズボラの幹部暗殺事案は、これまで人質解放の交渉に尽力してきたカタール政府を憤慨させ、「すべての和平と人質の生命を守るための試みを一瞬で吹っ飛ばし、地域におけるデリケートな安定を崩しかねない愚行」(首相兼外相)という非難が出ている事態は、大いに懸念されます。

そこに今年に入って起きたイラン革命防衛隊の幹部の殺害(シリア)や故ソレイマニ司令官の追悼式典におけるISによるテロなどが重なり、次第にアラビア半島およびペルシャ湾岸諸国も、ずるずるとイスラエルとハマスの血で血を洗うような凄惨な戦いに引きずり込まれつつあります。

これは口頭ではパレスチナ・ガザとの連帯を叫びつつ、実質的には何もしない方針を取ってきたサウジアラビア王国やUAE、ただでさえ不安定なイラク、反米反イスラエルを明確にするイエメンのフーシ派、そしてイランへの戦火の飛び火が現実になりかねない事態がそこまで来ています。

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