米英がイエメン「フーシ派」攻撃開始。崩れる中東のバランスと進む世界の分断

 

中東の「利権の確保」に移り始めた国際社会の関心

そして今年2024年、世界の人口約80億人のうち、42億人強を占める国々でリーダーを決める選挙が行われることも、国際秩序の今後に対する不確実性を高めています。

アメリカでは秋に大統領選挙があり、もしトランプ大統領が再選されるようなことがあれば、ウクライナへの支援は完全に終わり、以前、宣言したようにNATOからも離脱する可能性があります。在日・韓米軍の撤退もあり得るとの分析結果もあります。

アメリカにおいて誰が次の政権を担うのかによっては、欧州はウクライナを背負い、高まる安全保障上のリスクとコストをアメリカ抜きで担う必要性に駆られます。トランプ大統領のアメリカがイスラエルを見捨てることはないでしょうが、トランプ大統領の復権がパレスチナやアラブ社会に及ぼす影響は未知数であるため、恐らく東地中海における様々な紛争の処理を欧州が主導しなくてはなりません。

しかし、ご存じのように、残念ながら英国が抜けたEUにはその能力はありませんし、仮に英国が輪に加わっても、アラビア半島や北東アフリカ、ペルシャ湾に至る安定を守るだけのキャパシティーはありません。

ロシアもプーチン大統領が5期目をかけて選挙が行われますが、ロシアの制度上、プーチン大統領の統治が継続されることは確実視されており、4月に5期目を獲得した暁には、ウクライナに対するEnd gameを仕掛けてくると予想されています。

そして国内外で影響力の再建に着手し、その影響は、欧州全土はもちろん、広くシベリアから中東、アフリカ、そして昨今、進められている中央アジア諸国(スタン系)と南アジア諸国(インド、バングラデシュなど)を繋ぐ回廊を通じて南アジアまで及ぶよう画策してくると思われます。

その成否は、実はアメリカや欧州、アジア諸国の団結によってではなく、中国がどのような姿勢を取り、インドがどこまでロシアと協力するかにかかってくるでしょう。

そして延期されることになっているウクライナ大統領選挙がもし予定通りに開催され、ゼレンスキー大統領が下野してウクライナにロシア寄りの政権ができたり、東南部(ドンバス、マリウポリなど)・中央部(キーウなど)・西部(リビウなど、かつてポーランドと合わせてガリツィアと呼ばれた地域)に分裂したりした場合には、EUの東端地域の安全保障環境が緊張に満ちたものになると予想されます。

ロシアとウクライナの戦争の落としどころが見えず、最悪の場合、ロシアにウクライナが飲み込まれる事態が恐れられる中、すでに当事国以外はポスト・ウクライナの世界、そして“国際秩序”の構築に重点を移し始めています。

欧米諸国はもちろん、日本も、中国も、トルコも、そしてロシアの脅威に苦しめられてきたスタン系とジョージアなどの国々も、その輪に我先にと加わり、戦後復興という大義の下、それぞれのウクライナ(とロシア)における権益の拡大を画策しています。

そして先の見えないイスラエルとハマス、そしてヒズボラの戦いにおいても、同様の動きが活発化してきています。ガザの悲劇に心を痛め、涙し、即時停戦と人道支援の実施を訴えかける裏で、すでに“国際社会の関心”は、いかに中東地域の安定を取り戻し、利権を確保するかに移っており、そこにはアラブ諸国も含まれています。

「パレスチナ人、ガザと共に」と叫びながら心はここにあらずで、関心は影響力と経済力の拡大に注がれています。

そのような中、戦後の統治の世界に自らの居場所がないことを悟っているネタニエフ首相は、自身の保身のためにガザにおける民間人と人質に取られた同胞たちの生命を犠牲にしてでもこの戦争を長期化させ、自分が権力の座に居座るための口実・正当性を高めようとしています。

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