ソニーが3月22日に5G対応のポータブルデータトランスミッター「PDF-FP1」を発売すると発表しました。いかにも玄人好みな感じがするこの新製品について詳しく分析するのは、メルマガ『石川温の「スマホ業界新聞」』著者でケータイ/スマートフォンジャーナリストの石川温さん。「Xperia Pro」からスマホ機能をそぎ落としαの周辺機器に特化したことで、現場取材の多い記者やカメラマンにとって使い勝手がいいものになりそうと、その使用法を具体的に想像しています。
ソニーがポータブルデータトランスミッター「PDF-FP1」を発表──もしかしてスマホ機能をそぎ落とした「Xperia Pro II」?
ソニーは2024年1月30日、ポータブルデータトランスミッター「PDF-FP1」を3月22日に発売すると発表した。価格は15万9500円(税込み)。リリースが送られてきた瞬間、あまり聞いたことのない商品ジャンルで「なんじゃ、こりゃ」と思ったが、よくよく製品を見ると、限りなく、かつての「Xperia Pro」にそっくりであった。
6.1インチの大型ディスプレイを搭載し、国内外の5Gミリ波やSub6、スタンドアローン式の5G通信やローカル5Gにも対応。物理的なSIMに加えて、eSIMも備えている。OSはAndroid 13であり、SoCはSnapdragon 8 Gen2とのこと。これだけ見れば、まさに「Xperia Pro II」といった感じなのだが、面白いのが端子類で、入力端子としてはUSB-Type Cがデータ転送用と充電用の2個を搭載。HDMI端子とLAN端子を備えている。
ソニーとしては、同社のデジカメ「α」につなぎ、撮影した静止画や動画をすぐにサーバーやクラウドにアップしたり、ライブストリーミングできる機材として売り込んでいくようだ。
振り返ってみれば、ミリ波に対応し、同様のコンセプトで売っていた「Xperia Pro」はスマートフォンとポータブルデータトランスミッターの間という若干、中途半端な存在になっていたのは間違いない。今回は明確に「ポータブルデータトランスミッター」として売り出しており、スマートフォン要素がほとんど感じられないなど、潔い商品コンセプトとなっている。
個人的にはアップルの発表会を取材する際、開始直前の様子を撮影した動画を、5時間後に始まるような朝の情報番組向けに提供するといったことがここ数年、多い。動画をファイルにしてアップロードすると、とてつもなく手間と時間がかかるので、一般には公開にしない「限定配信」という形式でYouTubeに配信。テレビ関係者だけに公開して、ストリーミングで配信している動画をダウンロードして使ってもらうということをしている。ただ、現地のセルラー回線では安定性に欠けるといった不安を抱えながら配信しているのであった。
今回、発売となるPDF-FP1では「電波状況によりつながりやすい回線を自動的に選択してSIMを切り替えてデータを転送することも可能」という。ストリーミングで有効なのかは不明だが、あると心強いのは間違いない(5GとWi-Fiを束ねて安定的な通信をしてくれるとなお良い)。
数年前、Xperiaの開発部隊が、αの開発を経験されてきた人たちになりつつあるという話を聞いていたが、まさに今回のPDF-FP1はXperiaではなくαの周辺機器に生まれ変わったといっていいだろう。
確かに、例えばモータースポーツのカメラマンであれば、サーキットで撮影をしながら写真をアップし、プレスルームに戻ったときにはすでに編集部のサーバーに送付済みといった仕事の仕方ができなくもない(実際はカメラマンが画像の補正作業を行うが)。
テレビの現場でもLiveUといったセルラー通信を使った中継機材が当たり前のように使われ始めているだけに、ニッチな市場ではあるが、PDF-FP1が求められる現場というのは意外と多いのかも知れない。
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