【大炎上】鳩山クリミア訪問に同行したジャーナリストが明かす、現地の実情

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ところが、我々がクリミアに行くのを察知した外務省からは、出発当日の午前3時までロシア課長が芳賀秘書に電話をかけて「行くな」と制止しようとする異様なまでの圧力がかかった。日本政府としては、ちょうど1年前のクリミアのウクライナからの独立とロシアへの編入は、武力による領土の変更であり到底許容することができないという、米欧の立場を支持して対露制裁に加わっているので、そのクリミアに足を踏み入れることはその政府方針を妨げ、ロシアの立場を支持することに繋がると言うのである。

そんなことはなくて、その対露制裁そのものがどれほどの根拠があってなされたものであるのかをこの時点で検証し、どのような条件が整えばそれを解除できるかを模索することは、まことに「国益」に沿うことである。本来は政府としても、建前では制裁を続けつつも、裏では日露関係を解きほぐして正常化するための工作を積み重ねなければならない正念場であるはずで、それが外交というものだが、日本は建前だけで突っ張らかって、ロシアが膝を屈して詫びを入れて来るまでいつまででも制裁を続けるかの態度をとっている。そのような時に、鳩山が元総理であり日ソ共同宣言を成した一郎の孫でありながら今は一民間人であるという利点を活かして、この膠着をほぐす糸口を探ろうとするのはごく当たり前の「民間外交」である。

ところが、日本政府・外務省の立場に屈従するばかりの日本のメディアは、鳩山は「日本人ではない」「国賊」「パスポートを取り上げろ」といった口汚いキャンペーンを繰り広げ、これを一個のスキャンダルに仕立て上げた。つい先々週まで、ウクライナ危機の本質にも、クリミア併合問題の実体にも、日露関係の行方にも、何ら興味を持つことすらなかったメディアが、モスクワの街中や空港で彼を追い回し、成田の空港でも待ち構えて「元総理としてどう責任を取るんですか」「クリミアに亡命するって本当ですか」「ひと言お願いします」と絶叫してマイクを突き付ける有様は、亡国的としか言いようがない悲惨さである。こういうメディアのはしたない幼稚さを通じて、政府方針に逆らって異論を唱える者は「国賊」であるという社会的な雰囲気が深まって行くのが恐ろしい。

もちろん、このような挙国一致=大政翼賛的な風潮に対する反発は湧き出ている。3月15日付東京新聞の「こちら特報部」は「痛い文化」という面白いテーマを取り上げていて、「痛い」とは「他人の的外れな言動や勘違い・場違いな発言を批判的に評する若者言葉」なのだそうだが、それはともかく、その特集の末尾に「牧」署名のデスクメモがありこう書いている。

「ネットを見ると、鳩山由紀夫さんが『痛い人』になっていた。理由は先のクリミア訪問だ。ウクライナの極右の所業などを考えると、同国とロシアのどちらが善で、どちらが悪かは決め難い。そんな場合、双方にパイプがあることが肝要だ。米国のカーター外交の例もある。むしろ、非難の理由が痛くないか」

これが正常な感覚である。

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