ロシアの「北海道侵略」はありうるのか?ウクライナの“二の舞い”説を検証

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ウクライナ侵略に対する岸田政権の経済制裁への対抗措置として、北方領土交渉の停止を表明したロシア。もはや4島の返還は叶わぬこととなってしまったのでしょうか。今回のメルマガ『冷泉彰彦のプリンストン通信』では米国在住作家の冷泉彰彦さんが、過去50年間の日ソ・日ロ関係を振り返りつつ、北方外交の今後を考察。さらにこの問題に中国が深く関わってくる可能性を指摘するとともに、粘り強い領土交渉を展開するため、今我が国に一番必要とされている要素を挙げています。

※本記事は有料メルマガ『冷泉彰彦のプリンストン通信』2022年4月12日号の一部抜粋です。ご興味をお持ちの方はぜひこの機会に初月無料のお試し購読をどうぞ。

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ウクライナ情勢により、北方外交は一変したのか?

ロシア=ウクライナ戦争において、岸田政権は「NATO+G7」による、ウクライナへの全面的な支持と、ロシアへの経済制裁に踏み切りました。これによって、日本とロシアの関係は極めて冷却しています。

しかも、このタイミングで、ロシアの左派政党「公正ロシア」のミノロフ党首は、「一部の専門家によると、ロシアは北海道にすべての権利を有している」と日本への脅迫とも受け止められる発言を行なっています。日ロ関係は最悪で、ロシアはウクライナのように北海道に攻め込んできるかもしれない、そんな不安感すら広がっているわけです。

結論から申し上げると、日本は「うろたえる」必要はないと思います。

ちなみに、このセルゲイ・ミノロフ(69歳、プーチンと同年齢)というのは、連邦議会議長を務めたロシア政界の大物で、プーチン政権、メドベージェフ政権と極めて近かったのですが、現在は年金とか福祉など内政における国家主義の左派的な主張から、野党に降っている人物です。

また、「北海道に全ての権利」というのは、これは推測ですが、ミノロフという人物は、「アイヌはロシアの先住民族」だという暴言を考え出した張本人の一人であり、そこから来ているものと思われます。つまり、「北海道はアイヌの土地で、日本ではない」そして「アイヌはロシアの先住民族」ということは「北海道はロシア」というオカルト三段論法を根拠にしているものと推測されます。

後にも述べますが、とにかくロシアの政治家の外交上の発言は、「言い放って相手の出方を見る」ための「小手先のツール」として、それこそ「閃光弾」のように投げてくるものです。ですから、狼狽してケンカを買ったりするべきではありません。淡々と否定し、それに当方の強さを込めるというのがセオリーです。

それはともかく、現在のロシア外交に関しては、岸田政権は「当面は、北方四島の返還は諦める」「西側に同調して、経済制裁は強化する」「漁業等に出てくる皺寄せは、なんとか最小限にしつつ国家賠償も視野」という姿勢のようです。

もっとも、そんな中でも現在進行形で「サケ、マス漁業権の交渉」が行われています。こちらは大変に難航すると思われます。ここで、この日本の北方外交の今後を考えるために、ここ50年弱の経緯を振り返ってみたいと思います。網羅的なレビューはこの欄では難しいので、要所要所を繋いで説明させていただく格好になることをお許しください。

例えば1976年から77年という時期を考えると、当時の日ソ関係も大変に難しい状況に陥っていました。発端は、ソ連の「最新鋭」と言われた戦闘機「ミグ25」の操縦士(ペレンコ大尉)が西側に亡命しようとして、函館空港に着陸を強行するという事件でした。

この時、日本とアメリカは「恐ろしい最新鋭のジェット戦闘機」の軍事機密を調査する絶好のチャンスだとして、ミグ機を解体して検査したのです。その結果、軽金属を使用した軽量機体ではなく、従って超音速クルーズを長時間継続するのは無理であり、また電装系には真空管が使われるなど、完全に「ポンコツ」であることが判明したのです。

この経緯に関して、ソ連は激怒しました。旧式の設計の機体という恥(認めていませんでしたが)を暴露され、資産を侵害され、亡命により兵員を奪われたというのです。この激怒事件に加えて、1876年から77年にかけてソ連は一方的に「領海200カイリ」を宣言しました。そして当然のように南千島の4島から200カイリの域内は、自分達がコントロールすると宣言、以降は取り決めの期限が来るたびに、日本は難しい漁業交渉を強いられたのでした。

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