まぐスペインタビュー 【いじめ対談】弁護士 谷原誠 × T.I.U.総合探偵社の現役探偵 阿部泰尚 - まぐまぐ!

弁護士谷原誠の【仕事の流儀】

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伝説の探偵

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北海道の私立中学校でいじめを受け続けた生徒が退学を余儀なくされたという事件が11月に報じられました。この件ではいじめられた生徒に責任を転嫁するかのような学校側の対応も批判の的となりましたが、実際問題として学校側や加害者の利害関係ばかりが優先されるというのが実情とも言われています。そこで今回は、メルマガ『ギリギリ探偵白書』の著者で過去11年に渡り5,000件ものいじめ相談を受けたという探偵業の阿部泰尚さんと『弁護士谷原誠の【仕事の流儀】』の著者・谷原誠さんに、昨今のいじめの現状とその対策について対談していただきました。

「いじめ調査の無料化」はどう実現したのか?

まぐまぐ:阿部さんは探偵、谷原さんは弁護士でいらっしゃるわけですが、そもそもどういうきっかけで、お知り合いになったのですか?

阿部:僕が「まぐまぐ!」でメルマガを始めたときに、確か相互紹介を一番初めにお願いしたんじゃないかな。

谷原:でしたよね。

阿部:だから、「まぐまぐ!」が縁の始まりなんですよ。

T.I.U.総合探偵社の現役探偵、阿部泰尚さん

まぐまぐ:あ、なるほど。それは嬉しいお話ですね!

谷原:メルマガで相互紹介をさせていただいて、その後、それぞれ案件の紹介とか、直接調査の依頼をしたりとか、あるいは法律的な問題をご紹介いただいたりとか。メルマガを通じて、リアルにつながっていったっていう。

阿部:そうですね。比較的……というか、結構お願いすることも多いですし。

谷原:共通の知人が結構いるんですよ。なので、集まった時にお会いすることも多いですね。

まぐまぐ:なるほど。……ご縁が深いということで、ここからはあまりお2人の邪魔しないように、私たちはリアクションに徹したいと思います。

谷原:司会がいないということは、直でやっていいんですか? じゃあ僕から質問しますよ!

阿部:アハハ、マジっすか。

谷原:阿部さんが、そもそもいじめの問題に取り組み始めたのは、いつ頃の話なんですか?

阿部:えーと、平成16年くらいなんで、会社(T.I.U.総合探偵社)を始めて1年目……立ち上げてちょっとしてからですね。

谷原:いじめの問題に取り組むようになった、何かきっかけがあったんですか?

阿部:いじめの被害に遭われている、保護者の方からの依頼がきっかけですね。なんでも学校から「証拠を持ってこい」と言われたらしくて、「いじめ 証拠」とか「学校 証拠」っていう風に、ネット検索していたみたいなんですよ。そうすると、探偵事務所ばかりヒットするんで、いろいろ回ってみたそうなんですけれど、どこもそういうことを想定していないからと、断られたそうです。

谷原:阿部さんのところは、断らなかったんですか?

阿部:うちも最初は断りました。学校なんか入れないからって。でも、かなりしつこく「やってくれ」と言われまして。じゃあ出来る限りやってみようか、ってことになったんですけれど、やっていったら……あれは、万引き強要だったかな。ちょっと普通じゃなかったんです。僕らがイメージしているいじめというものとは異質のものだったんで、これはマズいんじゃないか、と危機感を持ったところがスタートでした。

単価120万円の調査費用を無料にできた理由

谷原:うーん、なるほど。ただ一般的には「いじめ問題を探偵に」という発想に、なかなかいかないと思うんですけれど、業界的にはどう受け止められているんですか?

阿部:僕らがいじめで注目され始めて、2008年ごろだと思うんですけれど、その辺りで競合する人たちが出てきたんです。それは単純に、金になるからという考え方が強かったと思うんですね。でも、その頃に僕らが無料化に踏み切ったりしたんで、結局追随できる人たちがあんまりいなくなって。だから今、探偵業でいじめについてって人たちは、口では「やってます」って言うんですけれど、内容を聞いてみると全く知らない。浮気調査くらいに思っている人がものすごく多いですね。

谷原:他の業者さんは、儲かると思って追随してきたとのことですけれど、一般的な探偵さんだと、いじめの調査というのは、だいたい単価としてどのくらいかかるものなんですか。

阿部:実は以前に、日本財団というところが僕らに支援をするということになって。支援の上限金額を定めようという話になったんです。その時に、標準的ないじめの場合に掛かる調査費用ということで……なんだか「標準的ないじめ」っていう言葉も、変なんですけれど。

谷原:(笑)

阿部:で、こういうのが多いよってケースでの見積もりを、他社に全部とってもらったんですよ。そうすると、だいたい平均が120万円くらい。

谷原:120万円! 結構な金額ですね。

阿部:はい。で、それを見た日本財団の人たちも「これは高すぎる!」と。さすがに1件の上限が120万円というのは厳しい部分もあるので、上限金額の折り合いがあったわけですけれども。

谷原:でも、本来なら120万円くらいの単価のものを、阿部さんの会社は無料化に踏み切ったわけですよね。これ、仕組みとかは話しても大丈夫なんですか。

みらい総合法律事務所 弁護士の谷原誠さん

阿部:はい、大丈夫です。

谷原:じゃあ、お願いできますか。無料化っていうのがちょっと驚きだったので。

阿部:あの、無料化にも「2段階」ありまして、初めの無料化っていうのは、調査員が動かない範囲だったんです。結局、学校で証拠を録音する際に、子どもに録音機を持たせることになるので、そういったことのトレーニングとか……。例えば、録音も単純に録ってるだけだと、「痛い」とか「やめてよ」とかしか入らないんで、こういう風にやり取りすると、録音に相手の名前も入るし、具体的なやられたことも録音されるしっていう、そういったトレーニング。

谷原:なるほど、録音トレーニングね。

阿部:それと、録音機の加工ですね。こういったところまでが無料だったんですよ。

谷原:それでも結構、工数かかりますよね。

阿部:結構かかります(笑)。

谷原:それを無料にして。

阿部:はい。で、次の段階の無料化なんですが、T.I.U.には比較的若い子も多いし、インターンで来ている子もいるんです。彼らは経験値が多少低いところはあるんですが、まあ下手は打ちません。そういった子たちが、いわゆる研修も兼ねて調査に入っていくと。また、将来的に調査の責任者になるような調査員も、トレーニングも兼ねて加わると。ただその代わり、バリバリに収益的な調査が入っちゃうと、一旦ストップすることもありますよ、っていう条件を飲んでもらうと。

谷原:それが無料化の仕組みなんですね。

探偵が見たいじめの実態とは

谷原:阿部さんが今までに相談を受けたいじめの数を、教えてもらえませんか。

阿部:以前までは正確に数えていなかったんですが、数える必要が出てきて……。残っている資料だけで数えたころがあるんですが、それで相談数がだいたい5,000件超くらいです。

谷原:11年間で5,000件……。

阿部:実際に調査したのが、現時点まででだいたい330件くらい。で、基本、全件解決です。

谷原:ではその経験を踏まえて、お話しいただきたいんですけれども……。だいたいですね、相談を受ける5,000件を見て、これはいじめの典型だよね、というようなものはありますか。

阿部:いじめの型……基本はやっぱり無視系が多いんですよね。

谷原:無視。仲間外れ。

阿部:それから、もの壊し。ものを壊したり、隠したり、捨てちゃったりとかいうのが、数としては一番多いかなと思います。結局、今はもう小中高……特に高校生くらいになると、LINEとかの使用率が90%を超えるくらいになっているんですけれど、そこで裏グループが出来ていて、いじめの打ち合わせが行われているっていうのが多いですかね。

弁護士の谷原誠さんと探偵の阿部泰尚さん

谷原:先日ニュースでいじめの統計が出て、小学校でのいじめの発生が増えたように感じたのですが……。

阿部:小学校でのいじめがある意味、解決が一番難しいかもしれません。まず調査に入れるか入れないかという部分に関しても、子供の年齢が低いので入れないということもあるんですね。いっぽう保護者の方も、高校生ぐらいなると「どんどんやっちゃってください」という感じになるんですけど、小学生だとちょっと躊躇するっていうんですかね、そういうこともかなりありますし。

谷原:なるほど。

阿部:それと、警察とかでもそうなんだと思うのですけど、年齢が低すぎると、証言能力があまりないという判断されることもかなりあってですね……。

谷原:確かに裁判所で証人尋問をやるときも、高校生だったら、まあ何とか聞いて信用性が判断できるんです。でも小学生だと、そもそも記憶に基づいて正確に言っているのかわからないし、表現の仕方もわからないし、どこかからちょっと圧力がかかると証言変えちゃうし。……あとは記憶が塗り変わっちゃうんですね、色々まわりから言われるうちに。

阿部:そうですよね。

谷原:だから小学生は、基本的に証人として裁判所に呼ばないんですよね。……それで、高校生だったら供述だけで証拠になる。じゃあ、証言が証拠にならない小学生のいじめを解決しようする時、証拠はどんな感じになってくるのでしょうか?

背後にJKビジネスの存在も

阿部:基本的には録音が多くなってきますね。あと学校でアンケートをとってもらうというのもあります。それと同時に、被害者側の保護者と普段から付き合いのある保護者の協力を得ながら、見たり聞いたりしたことを、周りの子たちからも聞くことと。怪我をしている場合は、本人が言っている話と怪我の部位が合っているかどうかも確認します。あと、手紙で「自殺しろ」とか書く加害者もいるんですよ。彼らは、字を崩しているつもりで書いているんですけど、実はそんなに崩れてない。

谷原:ああ、自分だとわからないようにして、「自殺しろ」と書くんだ。

阿部:書くんですよ。ただ、字の特徴とか出ちゃってるんで、そういった場合については、サンプルを提供してもらって、筆跡鑑定かけたり。……まあ、結構本格的な固め方をしていきますね。

谷原:歳が若ければ若くなるほど、客観的な証拠が必要になっていくんですね。そうやって阿部さんが担当してきたなかで、みんなが驚くような特殊ないじめの案件って、これまでにありましたか。

阿部:やっぱり一番ひどいのは性的なものですね。バックヤードでいわゆるJKビジネスみたいな……半ば犯罪組織みたいな連中が絡んでいて。いじめと言うより、犯罪に巻き込まれている感じだったりと。

谷原:犯罪というと、言える範囲でどんな感じですか?

探偵の阿部泰尚さん02

阿部:まあ、言える範囲のやつでいうと……水着を着て接客するようなお店で働かせたりとか。

谷原:その背後に大人がいるんですね。

阿部:いるんです。昔のように不良少年が夜の街で……という感じではなくて、今はネットを通じてそういう世界へと簡単に繋がっちゃったりするので。それがリアルで繋がるようになると、学生にアルバムを持って来させると。で、遠足とか何かの写真を持っていくと、「この子を連れてこい」という話になるんですよ。

谷原:なるほど、悪い大人が。

阿部:ただ、単に呼んだって来ないですから……。そうするとやる方側としては、その子と交渉条件をつけるために、その子の友人をいじめたり、もしくは変な噂を流して孤立させたりと。……そういうようなことをしてですね、本人が直接交渉に来ると「まあ1回でいいから、ここに遊びに来い」みたいな流れです。行っちゃうと、もうアウト。そういうケースの場合は、もはやいじめの枠を超えちゃってるので、警察の方にも介入をお願いしたりとか、色々するんですけども。

谷原:いじめ、いじめられというのが、いつの間にか組織的な犯罪に巻き込まれてしまっている、と。今のケースだと、有害な労働なので児童福祉法違反、それから労働基準法違反という、まあ普通に大人たちが逮捕されるような犯罪ということになりますね。

警察がいじめ解決に後ろ向きな理由

阿部:そういう過去には特殊だったケースが、当たり前になってきているというのは、いわゆるスマホの普及が大きいのかなと。いじめている様子を動画に撮るケースが非常に多いですし、あとは脱がされて裸を撮られたという相談が来たり、集団で強姦されたりというのも来るし。あとは、自慰行為ですね。「しろ」って言われて、強制的にさせられたと。そういった相談が、まあ男子も女子もくる。以前はそういうのって本当に特殊だったんですけど、最近は比較的多いというか、前みたいに僕も驚かなくなっちゃったという感じはありますね。

谷原:後半部分は、ほとんど犯罪行為なんですけど……。例えば、自慰行為を強要するっていうのは強要罪。お金出せっていうものがあるでしょ? そうすると恐喝罪。殴ったら暴行罪。怪我をさせたら傷害罪。たまに殺しあうのもありますね。殺人罪。で、動画で変なところアップしたら名誉棄損罪でしょ。ただ、いじめる側が動画でアップすると、それ自体がもう証拠になるんじゃないですか? それが証拠になって、調査と解決に繋がることもあるんですか?

阿部:それももちろんあります。ただほとんどは、いわゆる非公開のLINEで回すっていうパターンが多いんですよ。でも、特定のグループで回していると、それを見た人間が一部分をキャプチャして、それをTwitterにあげちゃたりするんです。そうすると、そこから一気に炎上するっていうのが、過去にもあったんですけどね。

谷原:なるほど。もはや学校内でのいじめの話だけではなく、警察の問題にもなって来ているわけですが、そういったいじめを解決するときに、その学校内だけで何とか解決するのか、あるいは警察の問題にしてしまうのかっていう、その辺りはどのようにお感じでしょうか?

弁護士の谷原誠さん02

阿部:これが結構難しいんですよね。あまりにも問題が大きくなりすぎちゃう、というか犯罪が絡んできちゃうと、もう学校の先生たちも完全に尻込みしているケースが多いですしね。また、いわゆる未成年だと、少年法児童福祉法といった法律があって、彼らがそれらに守られている部分がありますよね。ただ実際のところ警察は、通常の犯罪捜査と同じことを未成年たちに対しても、労力として割くわけですよ。そうなると警察としても、捕まえたところで……これって言っちゃっていいのかな? ……つまり、捕まえてもポイントにならない、と。

谷原:なるほど(苦笑)。

阿部:未成年の場合、逮捕じゃなくて、どっちかという補導なんですよね。家庭裁判所送致とかなんだとか。しかも、取り調べをするのにも何をするのにも、やっぱり普通の被疑者に対してやるよりも、かなり神経を使ってやんなきゃいけない。そうすると警察も、ものすごくやりたがらないところもある。……といいますか、はっきり言うと、初動の捜査から完全にやらないところもある。やれば一発でできるものを、一切やらないという。こういう、誰も触りたがらないという状況になってくると、結局誰がやるんだ、ということになるのかなと。……ここまで言っちゃっていいのかな? 後でお巡りさんに怒られそうな気がしてきた(笑)。

なぜ親は子のいじめに気が付かないのか

阿部:国立教育政策所というところが取っている統計なんですけど、小学校4年生から中学校3年生までで、いじめられたとか、いじめたという経験がない子どものパーセンテージが、確か13%だったと覚えているんですよ。

谷原:ということは、87%が何らかの形でいじめているか、いじめられているかってことですか。ただ、いじめに関与した子が親に言うことって、実際には少ないですよね。

阿部:少ないですね。

谷原:それに関する統計もありますよね。

阿部:はい、あれは僕らがユースガーディアンでとったものだったと思うんですけど……20%ぐらいだった気がしますね。

谷原:いじめられた子が、いじめられたことを親に相談する報告する確率が20%。ということは、80%の子供たちは、いじめられたとしても親に言わないということですよね。これは子を持つ親としては、衝撃的な結果だと思うんですけど、なぜ子どもたちは親に対していじめられたことを相談しないのでしょうか。

阿部:そうですね、これは世間的に言っちゃうと、信頼関係がどうこうとか、コミュニケーションがどうだとかという話なんですけども……。どっちかと言うと、いじめられている子供たちが、心の中で葛藤しているんですね。友達に迷惑かけたくないし、親にも迷惑かけたくないし、心配もかけたくない。そのいっぽうで、自分で解決したい、復讐したいという気持ちもあるし、悔しいという気持ちもあるわけです。それと、もしかしたら自分が悪いかもしれないと。ちょっと我慢したら、いじめのターゲットじゃなくなるかもしれないという期待感もあったりして。そうすると、徹底的に隠すって子が多くなるんですね。

谷原:なるほど。

阿部:いっぽうで、いじめをしている子たちのほうには変化がほとんどないので、周りが気付くのは大変ですし、やってる側にはいじめをしているという意識が少ないですし。で、いじめを意識している場合は、めちゃくちゃ隠すんですよ。やられている子も周りに迷惑かけたくなくて隠すし、やってる方は気付いていない、あるいは気付いた上でその事実の言い訳ができるように、いろんな工作をして隠している。結局、双方の当事者たちがものすごく隠しちゃうので、保護者が気付いたり、相談を受けたりというところまでなかなか至らないのが実体じゃないかなと。

お金を欲しがりだしたら要注意

谷原:実際、僕も幼稚園の時にいじめられていたんですけど(笑)。言わないですよね、親には。大ごとになっちゃうし、我慢しとけば終わるかもしれないし、言ったことでいじめが酷くなるかもしれないし、親に責められるかもしれないし。……まあ、言わないですよ。

阿部:そうですね、言わないですよ。

谷原:言わない。

阿部:でも、そのいっぽうで相談してくれると思っている親って、82%ぐらいいるんですよ。子供がいじめられたときに。

谷原:いじめられたら、自分には相談してくれると。

阿部:そう思う親が、82%いると言われている。

谷原:ほんと、逆ですね。

阿部:そうなんですよ。僕から見ると、保護者たちは胡坐をかいている状態だし、子供たちは閉じている状態なんで。そこの間を埋めていかないと、まずいじめの数も減らないだろうし、いじめってだんだんエスカレートしていくので、悪化するものを抑止したり止めたりすることができないじゃないかと思いますね。

弁護士の谷原誠さん03

谷原:今の結果を踏まえると、多くの場合に自分の子供がいじめられていても親は知る術がないですね。

阿部:そうですね。

谷原:いじめがあるのではないのかと、親が気付くことができる方法はあるんでしょうか?

阿部:いくつかテクニックはあるんですけど、やっぱりお金の問題も絡んだりしていると、いじめられている子はいろんな理由でお金を欲しがりますし。

谷原:お金を要求されていたり?

阿部:はい、そうなんですね。例えば、夏期講習があるからお金を払わなきゃならないとなったら、忙しい親だと「それいくらなの?」と言って、もう渡しちゃって終わり。他にも「参考書が欲しい」「洋服が欲しい」とか、いろんな理由を子供はつけるんですけど、本当に買っているのか、また買ってきたとして本当にその金額が掛かっているのか……。そういうチェック機能が、親たちが忙しいとつい疎かになってしまうので、その裏にあるいじめに気付きにくいと。

谷原:なるほど。

無視やLINEいじめに気づく方法

阿部:あとは……僕なんかはすぐ気付いちゃうんですけども、階段で転んだって言うのに、防御痕がないとか。小さい子だと、手でガードするのが間に合わない子もいますけど、ある程度年齢がいくと、転んだ時に手を先にケガしたりとか、ほかの部分でカバーしたりするものなんですよね。もっとも、ケガの位置とケガの理由が全然違う場合もあります。こういう、見ればわかることってもちろんありますよね。

谷原:外形的ないじめ、例えばお金を要求されているのであれば、どこかからお金を集めないといけないので、親に何かの理由をつけてお金を急にせびりだす、というようなことがありますよね。例えば殴られる、蹴られるという暴行の場合には、体に何らかの情報が残る。それもさっきと同じように、実際と違う理由を言って「これでケガした」というように言い張る、という兆候がある。他にも、例えば上履きを隠されるとか、リコーダーを捨てられるとか、物が急になくなるとか、教科書が汚れるとか、ランドセルが急にボロボロになっちゃったとか、そういう兆候があると。この辺はよく観察しましょう、という話ですよね。

阿部:そうですね。

谷原:ただ、そういうのとは逆に、無視をされるとか、LINE上でいじめられるとか、そういう、外形的な変化のないケースの場合って、何か気付ける方法はありますか?

探偵の阿部泰尚さん03

阿部:ありますね。その子の性格によって両極端な部分があるんですけども、そういういじめを受けた際に、閉じこもっちゃう子は閉じこもっちゃうんですよ。そうすると、1人になれる空間から比較的出てこなくなってきたり、そこにいる時間がすごく長くなったりするんですね。またいっぽうで、そういう様子を親とか身近な人に見せてしまうと、心配をかけるんじゃないかって勝手に本人が思い込むと、妙に明るくなったりとか、空元気になったりと。ブレはあるんですけど、やっぱり様子の変化というのが出てくる。

谷原:ほほう。

阿部:ただ、妙に明るい振る舞いをしている子と話をしてみると、明るさを装ってないと、いじめのことばかり考えちゃうというのもあるみたいだし、普通の生活ができないというのがあるみたいなんですよね。やっぱりそういう部分では、隠そうとするが故の反面行動みたいなのが、出ているのかなって。あとは携帯系、スマホ系でのいじめなんですが、普通って中学生くらいになってくると、スマホを自分の身の周りから離さないと思うんですよ。だけどいじめられている子は、そのスマホにはいろんな要求がくるし、いろんなこと書かれるので、やっぱり体から離しちゃうという様子も、結構あるんですよね。

谷原:いずれにしても、お金だとか体だとか持ち物だとかっていうのを、よく普段からお子さんのことを観察するのと同時に、精神状況ですね。様子をよく見てないと、なかなかいじめがあったことはわからない、ということになりますね。

少年院で未成年は更生できない!

まぐまぐ:阿部さんのお話を伺うと、最近では恐喝や性的なものといった、いじめの範囲を超えた「犯罪行為」も珍しくなくなったということですが、例えば、どこのラインを越えたらもう逮捕、罪に問われる、といったラインがあるんだとすれば、谷原先生に教えていただきたいです。

谷原:子供同士の場合、ちょっと叩いたりといったケンカを通じて、痛みとか相手のことを思いやる心とかを学んでいくものというのがあって、ちょっと叩いたくらいでは犯罪とは言わないんですね、基本的には。普通の社会人同士だったら、殴ったらもうそれで捕まるんですけれど。ただし、子供同士でもやっぱり一線を越える……外形的な傷ができるといった、要は骨が折れる、歯が折れるとかですね。そういう場合になると、これはもう教育の現場という一線を越えたことになるので、それは警察の問題にしていいでしょう。

まぐまぐ:なるほど。

谷原:それから、強姦なんていうのは、大人の世界なら完全に何年という実刑ですよね。子供の場合も、これは凶悪犯なので、まずは逮捕されます。ただ逮捕されるんですが、未成年の場合、裁かれるのは刑法じゃなくて少年法なんですね。

弁護士の谷原誠さん04

まぐまぐ:少年法だと、どう違ってくるんですか?

谷原:少年法というと、まずは家裁に行って、少年院とか保護観察とかそういう保護的なもので、更生ができると裁判所が判断すれば、家裁の範囲内で終わる。ところが集団強姦をやるぐらいになると、そこから教育したからって、そう簡単に直らないですよね。そうしたら「逆送」といって、今度は普通の刑事手続に行くんですよ。少年であっても。刑事手続になって普通の刑事裁判をやって……ただし少年法があるので、大人なら懲役10年のところを懲役4年から6年の不定期刑になると。そういう風にして、更生の状況を見ながら年数を決めて、社会に戻すという感じになってるんですね。

まぐまぐ:やはり未成年だと、刑が軽くなるんですね。

谷原:少年法によって、大人と違ってかなり更生がしやすいというふうに法律的には考えられていて、その分刑が軽くなる。ただし少年法ですべて守られるわけではなくて、学校教育から外れる明らかな犯罪、強姦や傷害そして恐喝といった、大人だったら大変なことになっちゃう犯罪の場合は、事情にもよりますけど警察問題になってもいいのかなと。ただ、普通の子供同士のケンカだったら、それは刑法の範囲ではなく学校内で扱われるべきでしょうということになると思います。

まぐまぐ:未成年は大人と違って更生がしやすいということですが、例えば最近だと本を出したりして話題になった元少年もいますけど、そういうのを見ると、とても更生しているとは思えないわけです。でも外に出てきていると……。更生していないという判断があったとしても、もう1回罪に問われるということはないんでしょうか?

少年院からグレードアップして出てくる人間も

谷原:法律的にはないですね。一度罪に問われた人は、それでもう全部終わりです。「一事不再理」と言うんですけど、一度で終わりです。今までおびただしい数の裁判がされる中で、「このぐらいのことをやった人は、このぐらいの刑期にしたほうがいいね」という公平性の問題もあるので、いきなり刑を重くはできないんですね。だから死刑にするのも、1人殺しただけでは死刑にならないとか、2人以上殺さないと死刑にならないとか、そういうのも結局、今までの過去の例との公平性みたいなのがあって、なかなかうまく機能しないんですよ、この辺は。

まぐまぐ:なるほど。

谷原:ただ法律の建前としては、あくまでも刑というのは復讐的なもの、復讐というか応報刑ですね。やったことの罪は償いましょうということと同時に、教育的な面もあるというふうに考えるので、全部死刑というわけにはいかないっていうことですかね。

阿部:僕も調査をしていて、結構ひどいことやっちゃってるのがいて、これはもう警察だろうと思ったら、案の定警察が動いてっていうのがたまにいるんですよ。それが例えば6年前の話だとすると、今じゃもう出てきちゃってるのが結構多いんですよ。で、詐欺の調査なんかやってると、使いっぱしりみたいなヤツが調査上に出て来て「またこいつか」みたいな。で、そういう子たちのことをうちのスタッフは「常連さん」って呼んでるんですけど。

探偵の阿部泰尚さん04

谷原:「常連さん」って……(苦笑)。

阿部:ただ、僕らのような小さな探偵社で「常連さん」とか言われるほど名が通っちゃってるような子は、もはや更生は難しいのかな、と。考え方もやっぱり短絡的だし……。例えば少年院にいるときだったら、謝りの手紙を出したりとかするらしいんですよね。ただ外に出ちゃうと、そんなものは一切ないし、謝りに行くこともない。本人からしたら「もう俺は償ったんだからいいだろう」みたいなところがあるようなんですよ。ただ1回少年院に入っちゃうと、レッテルを張られちゃって、まともな就職ができないこともある。それで、悪い仲間もいるしで、結局そっちの方向にいっちゃってるということがあるみたいですけどね。……詐欺師のヤツなんかは、刑務所新しいやり方覚えたって言ってましたよ(笑)。

谷原:教えてもらって?

阿部:はい、仲間で夜話し合ってるみたいなことを言ってましたよ。新しい仕組みを……。なんでそんなところで人脈作ってんだこいつ、って思いましたけど(笑)。結局子供も、少年院だったら少年院、鑑別所だったら鑑別所で、場合によっては変な人脈を作って帰ってくる子はやっぱりいますし。グレードアップして戻って来るというか(笑)。

谷原:修行に行ってきたっていう(笑)

阿部:ただ、まあしょうがないっていえば、それが法律って仕組みならしょうがない、とは思いますけど。

谷原:でも、まったく更生になってないですね。

探偵と弁護士が伝授するいじめ解決のテクニック

まぐまぐ:酷いいじめが多く起こっている現状で、解決を急いであげないと被害者がどうなるかわからないという時に、先生が先生として機能してくれない、警察が見て見ぬふりをする、場合によっては加害側の保護者も罪を認めず子供をかばうということがあると思います。そういうときに、阿部さんはどういう風に、その状況を切り崩してらっしゃるのかなって。

阿部:僕らはやっぱり、証拠を押さえることがどうしてもメインになってきますね。……当事者らと話をしていく場合に関しては、同じ質問を繰り返したりといった、テクニックみたいなものってあると思うんです。要は先に言わせたうえで、その後それを否定する証拠を出していくみたいな……。そういうテクニックをフル活用することはよくあるので、調査する項目は非常に多くなってくる。

まぐまぐ:しかし、それって結構際どい手法ですよね。

阿部:僕らは学校じゃないと。……もちろん証拠を取る際に、倫理観に基づいた行動は必要だと思いますけれど、そこまで手段を選んでいないというケースもある。だから、彼らの仲間内を裏切らせて、LINEの中でやりとりしたデータやいじめの画像などを入手して、それを切り札に使うっていうことも、僕らは結構やります。

探偵の阿部泰尚さん05

まぐまぐ:そういう切り崩し工作も……。

阿部:いじめって複数人でやるので、全員が口裏を合わせているケースがほとんどなんですけど、全員が同じ利害のもとにいるとは限らないんですよ。そうすると、その中の1人をどう裏切らせるかという工作もするんですが、その辺は「大人のずるさ」を100%使ってるっていうのはあります。そのくらいはしないと、子供がそういう風になっちゃってる親御さんって変な人が多いので、認めないんですよ。……すごいのになってくると、弁護士を連れてくる親とかいるんですよ。せいぜい保護者が来ればいいぐらいの問題なのに、そこに弁護士さんを連れてきた時点で、自分の子供の権利を守ろうとしてるわけじゃないですか。何もなかったら、そこまでする必要ないですよね。

まぐまぐ:確かにそうですよね。

阿部:そういう場合は、もう最初からケンカ腰だったりして、結構怖いんですよ。この手のものなら負けたことがないとか、こういう証拠の取り方は人権的にどうなのか、とかですね。「知るか、この野郎!」って感じなんですけど、結構色んなことを言ってくるんですよ。そういう、ある意味モンスターな親っていうのは多いし、そのモンスターな親の元で育っちゃった子供だから、モンスターになってるっていうのは感じます。

まぐまぐ:この親にしてこの子あり、ということですね……。

加害者側と学校が打ち合わせをしているケースも

阿部:また他に厄介なケースとして、酷いいじめが起きた場合に、学校が管理者としての責任を問われる可能性があるんです。そうなると、加害者側と学校側の利害関係が一致するってことがあるんですよ。現に私立校では、かなりの確率でいじめの隠蔽が起きていて、なかには加害者の親と担任や校長が、レストランで会って打合わせしてたりすることもあるんです。

まぐまぐ:おお……。

阿部:よくやるなあと思うんですけど、そういう風に加害者と学校の利害関係が一致すると、加害者側の反応がたいてい「そっちのほうがモンスターだ」ってなるんですよね。また、いじめ解決のために第三者委員会を作るとしても、メンバーは学校が選任するんですよ。学校側に有利な意見を出しそうな人を。で、そのメンバーもボランティアではないので、学校とか理事会から報酬をもらっているわけですよね。となると、たいていの結果が「いじめと類似したような行為や被害があったかもしれないけれども、厳密にいじめではない」と。……本来なら、被害者側の推薦する専門家を1人ないし2人入れるべきっていう話はあるんですけども、そういう学校ってたいてい被害者側が推薦する人は入れない。そのうえ議事録も開示しない。そういう問題って、僕らが手掛けている案件だけでなく、他にも結構あるようなので……。

谷原:法的にいうと……いじめが校内にありましたと。そのいじめによって怪我をしました、あるいは自殺をしましたってなりますね。そうすると被害者の親は、その被った損害を誰かに賠償請求しましょうという話になります。まあ刑事の問題とは別に民事で。そうすると、誰に請求するかっていうと、まずいじめた張本人の子供かその親、同時に学校も訴えるんですよね。学校を訴えるのはなぜかというと、学校の校長と教員は生徒の学校の関連する活動の中においては、生徒の生命身体の安全を守らないといけない義務がある、と。そのためにいじめられそうな子、いじめそうな子の普段の行動をよく観察して、そういうことが起こらないような万全の措置を講じる義務がある、ということになってるんです。

弁護士の谷原誠さん05

まぐまぐ:なるほど。

谷原:そうすると、いじめがあってそれを認識できたにもかかわらず、漫然と放置したという話になってくると、その義務違反になるので、今度は学校も訴えられるっていう話になってくる。するとどうなるかというと、自分たちが損返しを受けるかもしれない。あるいは、教育委員会から何か措置を受けるかもしれないという話になる。そうなると、いじめがなかったことにしたほうが、自分の責任は問われないという話になって、加害者とくっついてしまうというような方向になっていく。

まぐまぐ:……酷い話ですが、そういう方向になりかねないのは分かるような。

谷原:さっき阿部さんが「証拠が重要だ」とおっしゃっていたのも、その構造があって……。結局は、法律に基づいて学校の責任を問うためには、また加害者側の責任を問うためには、それが違法行為である、悪質な行為であるということを証明しない限りは、相手にいじめ行為をやめさせたり、反省をさせたり、法的責任をとったりという方向に行かないんですよ。だからこそ、「事実関係を確定する」っていうのが最も重要になるので、阿部さんが客観的な証拠をとるために全力を集中する、そういう構造になってますね。

阿部:ただ、僕らがやってることと近いことって、実は保護者の方にもできることが結構あるんですよ。学校の中とか、保護者だったら入れる場所もかなりあるんで、できれば保護者の方にも証拠取りというか、それにプラスしていじめの状況を把握するっていうのは、是非やっていただきたいって思っているんですね。ただ、素人考えで無茶や暴走をすると、自分のほうが悪いことになったりしますので、ある程度の範囲内でということなんですが。

弁護士が教える「交渉術」

まぐまぐ:このようにいじめの調査に関しては、阿部さんのような専門家にサポートなり教えていただかなきゃいけないと思うんですけど、その後の加害者側や学校との交渉においては、どういう準備をして、どういうふうに話を進めていけばいいのか……もし有効な手立てがあれば、谷原先生にちょっと教えていただきたいかなと。

谷原:交渉の場合には、誰かを動かして何かをしてもらうっていう話なんですね。だから、誰と交渉するかっていうのはまず考えないといけないんですよ。仮に、じゃあ担任の先生と交渉しましょう、担任がやればこれは解決できるんだとなった場合にも、担任と直接交渉するっていう話と、担任を動かすには、校長先生を動かした方が担任を動かしやすいという話だったら、校長のところにいくんですね。その校長先生を動かすためには教育委員会にいったほうがいい、ということであれば、教育委員会と交渉する。それで校長先生に降りて、担任に降りるっていう話になるので……。まずは、そこをどういう交渉戦略を立てて、誰と交渉しましょうかというところから、まず考えていかないといけないということ。

まぐまぐ:どこを突けば、解決に向けて話が動き出すか、ということですね。

谷原:また、交渉にも色々な方法があって、例えば「これはもう違法行為で、ちゃんとやってくれないと刑事問題にしますよ」という風に「正論」で行く方法。あと「いじめの被害に遭っているかわいそうなこの子、あなたはどう思いますか?」といった「」に訴える方法。それから「ちゃんと解決してくれないと、地域の人たちに真意を問いますよ」といった「脅す」方法。これらのうちで、どれが最も効果的かを考えたりという風に、まず全体の交渉戦略を練っておくのも重要ですね、交渉においては。

まぐまぐ:そういう交渉事に、あまり慣れてない場合はどうすればいいんでしょうか?

谷原:確かに、ガンガン言える人と言えない人がいますね。言える人は言いに行けばいいと思うんですが、言えない人は書類にして出せばいいんです、言いたいことを。

阿部:なるほど。

谷原:直接言いにくいということであれば、ご自宅で言いたいことを意見書や要望書という形にして、交渉の場に持って行って「詳しいことはこれに書いてありますけれども、かいつまんで言うとこれがこういうことです。ということで、よく読んでお返事をください」と言って帰ると。自分が得意なところ、不得意なところあったら、それを代替するような手段で交渉していくっていう。それも交渉テクニックですかね。

弁護士の谷原誠さん06

まぐまぐ:書面にするっていうのは、なかなか思いつかないかもしれないですね。

阿部:僕も、営業をやってるお父さんにやってもらった時なんですが、「概要だけ箇条書きにして、これで上手くトークしてください」って言ったら、これが上手いんですよ、営業マンなんで(笑)。逆に、どちらかというと人と話すのが苦手な事務職のお父さんの場合は、僕と話す前の段階から黙ってても書類を作って来るんですよ。もう起承転結ができてるし、半分もう企画書みたいな感じになってる(笑)。よく見ると、いつまでに回答しろといった期限までついてるし、すごいわ……と。だから、こと交渉事ということになれば、まさに普段から社会で揉まれているお父さんの出番なのかなと。

谷原:親がいざ自分の子を守るために行動しようといったときに、「でも、俺こういうのは苦手だから……」っていうのはあると思うんですね。ただ、それで「行動に移せない」という風になるのではなくって、その時にはそれを補う方法を考えてやる。とにかく、行動を起こすことを決めるっていうのが大事じゃないかなと思いますね。なんらかの補う方法があるはずなので、今の例とか。

阿部:その方法について、詳しくは谷原先生の本を読めばわかる、と(笑)。

谷原:交渉事についてはですね(笑)。

阿部:僕も持ってますよ。色々チェックしてあるので、それを地方の現場に行く新幹線の中でもう一度見直すんですね。こういうふうにしたらこう答えようとか、自分の中である程度落としてから、学校と話をしたりするんですけど。やっぱり寝ちゃって読まなかったときと、しっかり読んでいってるときとは違いますよ。これは、もう。

探偵が遭遇した現実

谷原:ただ、保護者がそれだけ準備してくるというのは、なかなか大変かもしれないですね。

阿部:ただ、たぶん読むと安心すると思うんですね。「あ、こういうやり方あるんだ」って。日本人ってあまり交渉慣れしてないように感じるんですよ。ちょっと交渉事があると、途中からケンカ腰になっちゃう人がいたりするんで。そういう人も、たぶん1回読んでみるといいんじゃないかと。

まぐまぐ:戦う術のひとつとして、ですよね。それに交渉ができたほうが、阿部さんもケガが減るっていう。

阿部:そうです!(笑)……結構あるんですよ。最近もそうですけど、交渉事で地方に行くことが多いんですね。すごい地方になると交通手段がないから、新幹線の駅から4時間くらいかけてレンタカー……っていうこととかもあるんです。で、学校に着いて、そこの校長先生と話したり担任の先生と話したりして、帰りになると……ずっと尾行してくるんですね。面白いですよ、探偵を尾行するって(笑)。

谷原:「バレバレだよ!」っていう。

阿部:こっちも色んなことして焦らせて、その表情をバックミラー越しで見て、喜んでたりするんですけど。「焦ってる、焦ってる」「どっち行っていいのか、わかんなくなってる」みたいな。方向指示器を右に出したり、左に出したりして(笑)。……あと地方によっては、日帰りできない所もあるので、そうすると近くでホテルとか旅館に泊まるんですが、その建物の外に利害関係者というか、加害者側の保護者が来たりとか。前にも、地下にちょっとした温泉みたいなのが付いてるホテルに泊まったんですけど、その温泉に入りながら、窓ガラスみたいなところから外を見てみたら、造園業のトラックが停まってて、書かれてる屋号が加害者の苗字なんですよ。

谷原:(笑)

阿部:で、ウロウロしてるんですよ、おっさんが! 「やべぇ!」と思いますからね。「オレ、いま裸だし!」みたいな(笑)。

まぐまぐ:恐ろしいですよね。

阿部:怖いですよ。……地域を守るっていうのは、僕は良いことだと思うんですけども、それが「不祥事を外に出ないように」という方向になると、僕らのような外部の人間を場合によっては襲うとか……。まあ襲うまではしないとしても、車で前後を塞がれるとかは、たまに発生するんですが、あれは本当に迷惑ですね。それで、なぜか向こうが警察呼ぶんですよ。自分たちが不利になるのに(笑)。お巡りさんに向こうを説得してもらって、ようやくどかしてもらったりすることって、結構あるんですよね。

まぐまぐ:向こうは一般市民なわけですよね。でも、そこまでやるんですね。

阿部:興奮しちゃってるんですよね。ヘタに車から降りると殴りかかってきたりするんで、一応説明しますけどね。「叩かれたら、絶対傷害罪で訴えますよ」「被害届ひきませんからね」って。あと「抵抗するので、その場合は正当防衛ってことでよろしく。ビデオも撮ってますから」って。でも、全然耳に入ってない。困るんですよね、無謀な方は……。

弁護士と探偵が伝授する「いじめ解決法」、いかがでしたか? 正論、情、脅し、書面にしてみる、などなど様々な方法がありましたが、肝心なのはいじめを受けている我が子を守ろうという親御さんの気持ちということに変わりはありません。悩まれている方、一歩踏み出してみてください。

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谷原誠さん プロフィール

東京弁護士会所属。弁護士25人が所属する「みらい総合法律事務所」の代表パートナーを務める傍ら「高次脳機能障害と損害賠償実務」(ぎょうせい)「事業再生」(パレード)「人を動かす質問力」(角川書店)など数多くの著作も手掛ける。

阿部泰尚さん プロフィール

T.I.U.総合探偵社代表、NPO法人ユース・ガーディアン代表理事。録音の技術において国内随一の技術を誇り、NHK「クローズアップ現代」などで取り上げられる。2004年に、探偵として初めて子供の「いじめ調査」を受件し、解決に導く。以降5000人以上(2015年12月現在)の相談を受け、関係各所が動きが取れない状態であった330件(2015年12月現在)に上るいじめ案件を手がけ収束・解決に導く。今も精力的に「いじめ問題」に取り組む。いじめの実態の最も近い第三者として、新聞テレビ雑誌などの取材を受け、精力的に発言している。自社で運営する探偵学校校長も務める。

伝説の探偵

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