■中長期の成長戦略
1. 中長期ビジョンの全体概要
ファーストコーポレーション<1430>は創業20周年を迎える2031年5月期を見据え、初の中長期ビジョン「First VISION 2031」を策定し、2026年1月に公表した。本ビジョンは、過去の中期経営計画「Innovation」の流れを継承しつつ、2031年5月期までの6年間を2つのフェーズに分け、成長を段階的に加速する構想である。建設業界では技能労働者の不足が常態化しており、不動産開発と建築施工の両輪を持つ同社にとって、事業機会は一段と拡大している。こうした事業環境下で、組織体制の強化を通じた成長余地が明確になったことを背景に、中長期的な成長に向けた取り組みを加速させる。
初年度にあたる2026年5月期は、売上高が計画を下回ったものの、各段階利益が計画を上回る水準で着地した。利益率の改善と成長投資の両立に一定の目途が立ったことから、2028年5月期までの各段階利益の目標を上方修正した。
初期3ヶ年のフェーズ1(2026年5月期~2028年5月期)は「足場固め」「基盤構築」と位置付け、売上高500億円、営業利益41億円(当初計画比6億円増)を目標とする。続くフェーズ2(2029年5月期~2031年5月期)では「進化と飛躍」を掲げ、売上高1,000億円、営業利益率8%以上の実現を目指す。目標の達成に向け、人材確保を通じた施工能力拡大を最優先とし、DXや人材育成による業務効率化を通じて収益力の向上を図る。同社は、中長期ビジョンの達成を通じて、東証プライム市場への再上場を目指す。
2. 重点施策
(1) 人的資本投資
同社は、売上高1,000億円体制への移行に向けた最大の成長ドライバーとして、人的資本への大幅な投資を経営の最優先事項としている。2031年5月期までに、従業員数を2026年5月期末の179名から300名以上へ拡充する計画であり、特に若手人材の確保を重視する。2027年卒以降の新卒採用は毎年30名以上とし、従来実績を大きく上回る規模での採用を進める。
人材の確保と定着を支える施策として、「給与・休暇・希望・かっこいい」を軸とした「新4K」の実現を掲げている。給与・処遇面では、業界平均を大きく上回る水準を維持し、加えて、35歳以下の若年層に対して住宅手当を支給するなど、手厚い処遇を整備している。
教育・キャリア面では、トレーナー制度や階層別・事業別研修を通じて成長環境を整備するとともに、資格取得を支援している。離職率については、2025年5月期実績の11.8%から、2028年5月期に6.0%、2031年5月期には5.5%に引き下げることを目標としている。
また、人材確保の選択肢の1つとして、建設業や不動産業を中心としたM&Aについても機動的に検討する方針である。
(2) 事業推進
1) 造注方式及び共同事業の推進
同社の強みである造注方式をさらに深化させ、高利益率の確保を図る。加えて、従来の建物引渡で完結するビジネスモデルから、マンション販売まで関与する「共同事業」へのシフトを加速する。2031年5月期に向けて、収益機会を最大化できる共同事業の比率を過半数まで引き上げる方針である。同社自身が舵取りできる強みを生かし、不動産開発から建築施工、販売(分譲)までを一貫して担うことで、バリューチェーン全体での利益獲得を目指す。
2) 建築種別の拡大
主力の分譲マンションに加え、建築種別の多様化を推進する。住宅分野では、若手所長の育成に適した賃貸マンションの受注を増やし、施工部門全体の底上げを図る。また、非住宅分野では、ホテルや商業施設に加え、データセンターなどの特殊分野への参入も検討している。賃貸マンション及び非住宅案件が受注案件に占める割合は、現在それぞれ約3%ずつとなっているが、2028年5月期にはそれぞれ10%、2031年5月期には20%まで引き上げる計画である。再開発事業は、JR前橋駅北口の実績をモデルケースとして、自治体と連携しながら事業参画を強化し、中長期的な安定収益源として育成する。
3) 見送り案件への対応(施工キャパシティの制約解消)
同社の成長余地として注目されるのが、施工管理体制の制約によって受注できていない「見送り案件」である。同社は「安全と品質は全てのものに優先する」という経営理念の下、人員不足が品質や安全に影響する可能性がある案件については、受注を見送る方針を徹底している。
この機会損失を成長機会へ転換するため、人的資本投資を最優先とし、施工体制を抜本的に強化する。併せて、協力会社との連携深化やM&Aによる人材確保を通じ、優良案件を適正な利益率で確実に獲得できる体制への移行を目指す。
4) 安全品質管理
「安全と品質は全てのものに優先する」という理念の下、管理体制を一段と強化する。社内専門部署による定期パトロールに加え、杭工事や配筋、生コン、内装下地に至るまで、第三者機関による施工監査を自主的に導入している。コストや手間を惜しまない品質管理が、デベロッパーからの高い信頼と継続受注につながっている。
5) 業務効率化(DX推進)
現場の生産性向上と労働時間削減に向け、全社を挙げてDXを推進している。2024年5月期に発足した建設ディレクターグループが、現場社員の事務作業や帳票作成をデジタルで支援する体制を構築し、2026年5月期の4週8閉所率※は79.7%(前期比10.5ポイント上昇)となった。
※ 主に建設業界で進められている「現場自体を月8日以上休みにすること」を実現するための取り組み。
また、施工管理ツール「ANDPAD」を活用し、現場情報をリアルタイムで共有・管理することで、品質維持と業務効率化の両立を実現している。
■株主還元策
配当性向30%以上、2028年5月期まで毎期増配を計画
中長期ビジョン「First VISION 2031」では、フェーズ1の2028年5月期までの配当計画を更新した。安定的、かつ持続的な利益成長に応じて、段階的な株主還元を行う方針である。2026年5月期の1株当たり配当金は年間48.0円とし、前期比6.0円の増配となった。2027年5月期は年間51.0円(前期比3.0円増)、2028年5月期は年間58.0円(同7.0円増)を予想している。さらに、フェーズ2の最終年度であり創業20周年となる2031年5月期には、配当性向40%を目安として検討する方針である。
配当以外の株主還元策として、株主優待制度を実施しており、保有株式数と保有期間に応じてQUOカードを進呈している。また、自己株式の取得についても機動的に対応する方針であり、株主への利益還元を重視する姿勢を示している。なお、2026年7月には中央日本土地建物と資本業務提携契約を締結し、第三者割当により自己株式600,000株(発行済株式総数(自己株式を含む)に対する割合4.5%、処分価額1株965円、調達資金579百万円、払込期日2026年8月10日)を処分することを決議した。調達資金は人的資本投資に充当する方針で、分譲事業における共同事業の推進、建設分野での知見共有、人材交流の3分野で連携する。2027年5月期の業績への影響は精査中としている。
(執筆:フィスコ客員アナリスト 渡邉 俊輔)
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