終わらないドーピング問題。金メダルをとらないと大変なことになる国

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オリンピックは世界的なスポーツの祭典である一方で、長年政治利用されてきたと、メルマガ『ジャーナリスト嶌信彦「時代を読む」』の中で、著者の嶌信彦さんは明かしています。テロが身近なものとなってしまった今、2020年の東京オリンピックを無事に開催するには過去の経験からどのように学んでいけばよいのでしょうか。

オリンピックと不穏な空気。不恰好な五輪は今に始まったわけじゃない

今日はオリンピックの話。このところロシアのドーピング問題が報じられ、先週国際陸連が正式にロシアの資格停止処分を発表した。これでロシアのスポーツ選手はあらゆる国際大会への出場が禁止され、来年のリオデジャネイロ・オリンピックに出場できない可能性もでてきた。

今回のことは背後に政治的な背景やその他の事情と絡んでいるのか、まだ見えてきていないが、ロシアとしては国威発揚し、ぜひオリンピックでメダルを獲得したい。最近ロシア資源価格が下がり、国際社会からも若干孤立気味で、このオリンピックに出られないというのは痛いのではないかというように思う。

考えてみるとオリンピックは政治と関連するようなことが多い。思い返すと、かっこの悪いオリンピックとしては1980年の西側諸国がボイコットした「モスクワオリンピック」、もう一つが84年にその意趣返しのように社会主義国がボイコットしたロサンゼルスオリンピックがある。80年のモスクワオリンピックの時、私は新聞記者として働いていた。

79年にソ連がアフガニスタンに侵攻。それに抗議したアメリカが中心となって80年開催のモスクワオリンピックを西側スポーツ大国が一斉に大会をボイコットした。それまで120ヵ国近くの参加だったが81ヵ国に減少。当時の新聞には「片肺五輪」、「変則五輪」という言葉がおどっていた。そういう意味でスポーツと政治の関わりが鮮明になった象徴的なニュースと言える。

モスクワオリンピックで日本の選手の活躍が期待され、特にマラソンの瀬古選手柔道の山下選手への期待が高まっていた。私はお二人に実際に何度かインタビューしたことがあったが、瀬古選手は絶対に勝てると思っており、「参加できないことが悔しくて寝られなかった」と語っている。

瀬古選手はずっと勝ち続け、トータル15戦10勝をあげている。その後、ロス大会に出場したが調子が悪く勝つことが出来ず、「自分ほどオリンピックについていない選手はいない。その点、有森裕子さんほどオリンピックについている選手はいない」(有森選手はオリンピック2大会出場し、ともにメダルを獲得している)と。

土井アナ(TBS)は瀬古氏からこの話をよく聞くが「モスクワに出ていたら、必ず勝っていた。当時の3強である宗茂氏、宗猛氏がみんな出たらおそらく1、2、3フィニッシュであった」とよくおっしゃっている。

瀬古氏は非常に朗らかな方なので、そのことは飄々と言われるのだが、余計そこに悔しさがにじみ出ているように感じた。あの時日本が出ないことは非常に苦渋の決断。国としては参加しないことを決定。ヨーロッパの国などでは個人が参加するという例もあり、日本もその道を探っていたが、結局JOCの判断により参加は見送られた。

東側諸国が成果を上げなくてはならないという大会でもあり、社会主義国2/3位メダルを獲得出来(キューバを含めた東側諸国の金メダル獲得は204個中161個、79%占めた)、国威発揚できたと言ってもよいであろう。しかしながら、選手には金メダル獲得義務付けられ、その結果組織的なドーピングが行なわれ、後に多くの選手が健康被害を受けることになった。まさに今につながっていることでもある。

84年のロサンゼルスオリンピックでは、意趣返しとして東側諸国がボイコット。表向きの理由としては83年のアメリカ軍によるグレナダ侵攻への抗議であったが、結局140ヵ国が参加した。当時私はアメリカに駐在しており、ベトナム戦争、双子の赤字があって弱くなってきた折、レーガンが強いアメリカをスローガンに掲げ、アメリカがようやく強くなったことを象徴するオリンピックでもあった。アメリカがメダルを総取りするようなオリンピックにもなった。

日本にとってこのオリンピックで一番印象的だったのは柔道の山下選手。2回戦で西ドイツの選手(アルトゥール・シュナーベル選手)と対戦した際に軸足である右足の肉離れを起こしながらも決勝に進出。対戦相手はエジプトのラシュワン選手。山下選手は監督から寝技にもっていけ、寝技にもっていくためには投げられろ」と言われるが、山下選手は「投げられて、寝技にもっていくことは怖くてできない」と思ったと言っている。

そこで山下選手は気合で自分を奮い立たせ、結局最終的には寝技にもっていき横四方固めで一本勝ちするのだが、その時ラシュワン選手はなぜ山下選手の足を狙わなかったのかとエジプトに帰国後批判された。ラシュワン選手は「私はアラブ人だ。アラブ人としての誇りがある。そんな卑怯なことはできない」と発言。これを受けラシュワン氏はアラブの英雄となり、ユネスコフェアプレー賞」を受賞。その後二人は仲が良く、何度も会っている。

その後、山下選手は政治の外交でも小泉首相とプーチン大統領の会見の際、柔道場での会見(2003年)を取り持つなど、名実とも世界の山下として活躍。そう考えると政治とオリンピックは切り離せないものであるが、あまり絡めて欲しくないなと思う。

今やテロと向き合うオリンピックとなっており、テロをどうするかということもある中で日本も2020年に東京オリンピックでの対応をどうするかという問題もある。また、来年のサミット(伊勢・志摩)でもきちんと対応しないと大変なことになるなと、今のフランス・パリのテロ事件を見ていると思えてくる。政治とスポーツを切り離すためにもまずは、国内の安心・安全をしっかり確保しなくてはならない。

image by: lazyllama / Shutterstock.com

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ジャーナリスト嶌信彦「時代を読む」

ジャーナリスト嶌信彦が政治、経済などの時流の話題や取材日記をコラムとして発信。会長を務めるNPO法人日本ウズベキスタン協会やウズベキスタンの話題もお届けします。

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