ざわつく北朝鮮。「ハリボテ」ミサイルを侮れないこれだけの理由

 

水爆の威力原爆とはケタが違います。人類史上最大の水爆は、ソ連が製造して1961年10月30日に核実験した『ツァーリ・ボンバ』(『爆弾の皇帝』という意味)。これは100メガトン級のものの出力を50メガトンに抑えて爆発させましたが、威力は広島に落とされた原爆『リトルボーイ』の実に3300倍。第二次世界大戦中に全世界で使われた総爆薬量の10倍の威力があったといいます」

「爆発によるキノコ雲は高さ60キロ、幅30~40キロもあったとされ、一次放射線の致死範囲(500レム)は半径6.6キロ、爆風による殺傷範囲は23キロ、致命的な火傷を負う熱線が届いた範囲は実に58キロに及んだともいわれています。爆発の衝撃波は地球を3周しました。あまりにも威力が大きすぎ、同様の水爆が再びつくられることはありませんでした」

水爆は技術的にハードルが高いだけでなく、小型化しても威力が大きすぎ、事実上、使えない核兵器の代名詞のようになっています。メガトン級の水爆は、各国が核開発の重要なステップとして手がけるけれども、ミサイルや爆弾の命中精度の低さを補うためのもので、今は中国しか配備していません」

実験は本当に成功したのか

:今回北朝鮮が爆発させたのは本当に水爆だったのか、という見方があります。これについては?

小川:「今回の実験で観測された地震の波形は、過去3回(2006年10月、09年5月、13年2月)とよく似ており、地震の規模もマグニチュード4程度とだいたい同じでした。水爆ならばもっと大きな爆発になるはずということから、北朝鮮は水爆実験の振りをしている(原爆だったものを水爆と言い張っている)のではないか、あるいは水爆実験だとしても失敗したのではないか、という見方があります」

「アメリカではホワイトハウスのアーネスト報道官が『初期の分析はこの実験が成功したという北朝鮮の主張とは符合しない』と述べたほか、韓国情報機関の国家情報院も爆発の規模を3回目の核実験よりも小さい6~7キロトンと報告しています」

「原爆から水爆への開発プロセスで技術的に難しいのは、まず原爆の実用化、とくにミサイルの弾頭に積むための小型化です。つまり濃縮ウラン型(広島型)ではないプルトニウム型(長崎型)を開発しなければならず、このハードルが高いのです」

「どこまで小型化できたかは別にして、北朝鮮が水爆実験なるものを公表した時点で、少なくとも実用段階にある原爆を持っていることはたしかでしょう。しかし、起爆装置の原爆で超高温・超高圧をつくり出す水爆では、重水素や三重水素を核融合させるタイミングが100万分の1秒単位とされ、かなりの技術力を必要とします。北朝鮮がその段階に至っていない可能性は、視野に入れておく必要がありますね」

北朝鮮の核兵器技術は、もともとは旧ソ連の技術です。もっとも旧ソ連の核科学者やミサイル技術者にはロシア人もいればウクライナ人もいます。ですから混乱の続くウクライナあたりから科学者や技術者が入った可能性があります。また、ソ連崩壊段階の核兵器やミサイルの設計図、各種データ、材料などが北朝鮮に流れ込んでいるかもしれません」

:大気中に出た放射性物質から水爆と判定することはできるのですか?

小川:「原爆由来ではないトリチウムなどが検出されれば可能です。しかし、地下のかなり深い密閉空間で爆発させていますから、放射性物質を確認できたとしても時間がかかります。包括的核実験禁止条約機関(CTBTO)が3回目の実験を核爆発と確認したのは、実験から55日後でした。確認するのに充分な量が大気中に出るかどうかもはっきりしません。いずれにせよ、過去の実験では放射性物質を確認するために日本、アメリカ、ロシア、イギリスの航空機が飛びました。今回も日米ロが飛ばしています」

航空自衛隊のC-130輸送機による希ガス収集
(1月6日、防衛省サイト)

「ここで注意が必要なのは、かつて北朝鮮は、何かをやった振りしたり、あるいはやったという噂が流れたり、あるいは張りぼての弾道ミサイルを軍事パレードに出してきたりという場合でも、3年後や5年後に、それを着実に実用化してきた過去があることです。だから決して侮ってはいけません。彼らは明確な目標を掲げて歩みを進めているのです」 

北朝鮮の国家戦略はしたたか

:北朝鮮の核実験は今回で4回目、金正恩体制下では2回目です。北朝鮮の国家戦略における原爆や水爆の位置づけを解説してください。水爆実験に成功したと言い張る北朝鮮は、ようするにアメリカに振り向いてほしいのですか?

小川:「北朝鮮の国家戦略はこうです。まず北朝鮮は、核兵器と弾道ミサイルの開発を、何があってもやめません。今回の実験強行も明確な国連安全保障理事会決議違反ですから、国際社会はこぞって北朝鮮を強く非難し、日米はじめ各国が制裁を強化します」

「しかし、北朝鮮が受ける制裁は経済的な制裁だけです。韓国は国境地帯の大音量宣伝を再開し、アメリカは戦略爆撃機B-52を飛ばしましたが、北朝鮮が核実験を理由に軍事的な攻撃を受けることはないのです。経済制裁に加えて、国際的な孤立がいっそう深まりますが、明確な国家的な目標があれば、経済制裁や国際的孤立には耐えることができます」

「だから、金正恩の北朝鮮は、大量破壊兵器疑惑で戦争に引きずり込まれたフセインのイラクとは違い、堂々と核実験をやっています。ロシアも中国も、北朝鮮の動きを決して好ましいとは思っていませんが、アメリカその他が核実験を理由として北朝鮮を軍事的に攻撃しようとすれば必ず止めるでしょう」

「以上のような判断のもと、北朝鮮は核兵器と弾道ミサイルの開発を進めています。そして、やがてアメリカ東海岸に到達する核ミサイルを手にすれば、そろそろ北朝鮮を核保有国として認め、扱ってもいいのではないか、という機運が生まれてくる可能性は少なくありません」

アメリカは、北朝鮮を核保有国として認めないと言い続けていますが、同じように認めない姿勢だったのに結局は認めたインドの例があります。だから、北朝鮮が核とミサイル以外の動きで国際的な脅威とは見なされないような、まともな国に脱皮していけば、核保有国として認められることがあり得るのです。そのとき北朝鮮はインドと同じ立場に立つことができるわけで、第1のステップとしてこれを目標にしているのです」

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