平和の破壊。「暴政」北朝鮮をどうやって追い詰めればいいのか?

 

海上封鎖は平時と戦時の分水嶺

Q:経済制裁に効きめがないとなれば、その次にくる制裁は?

小川:「経済制裁が効かないからといって、一気に軍事的な制裁が始まるわけではありません。今回の航空燃料の禁輸などが効果を現す可能性もあります。しかし、それも効き目がなかった場合、軍事制裁に向かう一歩手前の重要なステップがあります。平時の非軍事的措置と戦時の軍事的措置の境目に位置し、『分水嶺』となるのが『海上封鎖』です」

「海上封鎖とは、ある国が海軍力を使って他国の港湾への船舶の出入港を阻止することです。戦争中にも作戦の1つとしておこなわれる場合がありますが(戦時封鎖)、ここで考える海上封鎖は非軍事的措置の一環とされる平時封鎖です。具体的には、海軍艦艇によって出入りする船を臨検、つまり強制的に船内に立ち入り、船舶書類を検査したり船内を捜索したりして、必要に応じて船の行き来を止めたりするわけです」

「ただし、海上封鎖というのは臨検して船をストップさせるだけではありません。海上封鎖をおこなうときは、封鎖を突破しようとする船舶があれば阻止する準備を整えるなど、いつでも軍事攻撃に移ることができる態勢をとるものです」

「たとえば、米政府・米軍はアメリカ人が滞在する世界各地で非戦闘員退避計画(NEO=Non-combatant Evacuation Operations)を立てており、朝鮮半島でも何通りかの計画をもっています。メインのそれは、3,000メートル級滑走路を備え1日5,000人(望ましいのは9,000人)の収容能力がある主要空港を確保し、米兵家族や政府関係者など12万5,000人を航空機で国外に退避させるものです。最初の7日間で空港確保などの準備を終え、10日めから避難を始め、23日めに終了する計画です。アメリカ人が航空機で朝鮮半島から続々と脱出しはじめれば、それと同時に海上封鎖を行う米軍と同盟国の艦艇が朝鮮半島周辺に展開します。NEOは、軍事攻撃をも辞さない圧力の1つとして実施され、相手の態度を変えさせることまで狙っているのです」

「ところが、安倍晋三首相が2014年段階の記者会見で日本人母子を描いたパネルを使って説明したような船舶による朝鮮半島からの退避は、メインの計画ではありません。アメリカは『海上輸送によるNEOは実施困難』としており、船舶によるNEOは、展開される海上封鎖部隊と調整できた場合だけとされています。海上封鎖は、小競り合いから軍事制裁へと移行しかねない分水嶺ですから、それ以前に自国民を主に航空機で避難させるわけです」

Q:経済制裁は国連憲章第7章第41条に基づきますね。国連憲章では海上封鎖はどう位置づけられているのですか?

小川:「長くなりますが、第39条から第51条まである国連憲章第7章の第42条までをざっとお読みください。第39条は、国連安保理が平和への脅威・平和の破壊・侵略行為を認定し、勧告し、第41条や第42条の措置を決めるという大枠の規定です。第40条は、勧告や措置の決定以前に要請もありというただし書き。第41条は、兵力の使用を伴わない措置で、これが経済制裁です。第42条は、陸海空軍による軍事行動です。その次の第43条は、国連軍について書いてあります」

【資料】
国連憲章 第7章 平和に対する脅威、平和の破壊及び侵略行為に関する行動

第39条
安全保障理事会は、平和に対する脅威、平和の破壊又は侵略行為の存在を決定し、並びに、国際の平和及び安全を維持し又は回復するために、勧告をし、又は第41条及び第42条に従っていかなる措置をとるかを決定する。

第40条
事態の悪化を防ぐため、第39条の規定により勧告をし、又は措置を決定する前に、安全保障理事会は、必要又は望ましいと認める暫定措置に従うように関係当事者に要請することができる。この暫定措置は、関係当事者の権利、請求権又は地位を害するものではない。安全保障理事会は、関係当時者がこの暫定措置に従わなかったときは、そのことに妥当な考慮を払わなければならない。

第41条
安全保障理事会は、その決定を実施するために、兵力の使用を伴わないいかなる措置を使用すべきかを決定することができ、且つ、この措置を適用するように国際連合加盟国に要請することができる。この措置は、経済関係及び鉄道、航海、航空、郵便、電信、無線通信その他の運輸通信の手段の全部又は一部の中断並びに外交関係の断絶を含むことができる。

第42条
安全保障理事会は、第41条に定める措置では不充分であろうと認め、又は不充分なことが判明したと認めるときは、国際の平和及び安全の維持又は回復に必要な空軍海軍または陸軍の行動をとることができる。この行動は、国際連合加盟国の空軍、海軍又は陸軍による示威、封鎖その他の行動を含むことができる。

国連憲章テキスト

小川:「海上封鎖という言葉は国連憲章には出てきませんが、第41条に『航海』の『全部又は一部の中断』とあり、経済制裁の最終段階と考えることができます。一方、第42条に『空軍、海軍又は陸軍による示威、封鎖その他の行動』とありますから、海上封鎖は42条の軍事的な措置につながる行動とも見なすことができます。海上封鎖は、国連憲章では第41条と第42条の間の行動と位置づけられている、まさに分水嶺なのです」

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