真田丸『第35話』裏解説。「犬伏の別れ」は武士として当然の事だった?

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NHK大河ドラマ『真田丸』を放送直後にワンポイント解説する人気連載シリーズ。今回は真田父子の「犬伏の別れ」について。一般的には真田家を残すための苦渋の決断と考えられていますが、西股さんはこれに対して真っ向から反論。「どちらの側につくかは一族云々の問題ではなく、武士として当たり前の価値観」とのこと。武士の価値観とは一体どんなものなのでしょうか?

今回のワンポイント解説(9月4日)

真田父子が袂を分かった犬伏の別れ」。一般には、家を残すための苦渋の決断と言われている。つまり、父子が石田方と徳川方に分かれれば、どちらが勝っても真田の家を残すことができる、というわけだ。でも、僕はちょっと違う考え方をしている。

権力が分かれて、天下を争うような事態に直面した時、どちらの側につくか。こうしたシビアな状況下ではあくまで個人の判断を優先するのが武士たちの価値観なのだと、僕は思う。たとえば、少し古い話だけれど、保元の乱に際して、平清盛と源義朝は後白河天皇側についたが、平忠正(清盛の叔父)と源為義(義朝の父)は崇徳上皇側についた。また、後鳥羽上皇が鎌倉幕府打倒の兵をあげた時、大番役で京にいた御家人たちはみな、上皇軍に参加した(承久の乱)。彼らは幕府の命運は尽きたものと見て鎌倉に残っている親兄弟たちと敵味方に分かれる判断を下したわけだ。 

こうした場合の去就は、個人の判断が基本にならざるをえない。もちろん、判断の背後には、権力とのつながり方や血縁関係、といった事情があろう。けれども、戦いとは、そもそも投機的要素を避けられない営みだ(要するに博打ということ)。ゆえに、戦いをなりわいとする武士(侍)とは勝算を得たり勝機を見出したりすることに長けていなければやっていけない商売。そして、生き残った方が、自分の家を興す。もし、保元の乱で崇徳側が勝っていたなら、忠正が平家の棟梁となっていただろう。 

戦国時代も、合戦がうち続く中で、武将個人の力量が鋭く問われていた。人質として信玄の元にいた昌幸が、兄たちとは別に足軽大将として活躍し武藤喜兵衛を名乗っていたのは、信玄が昌幸個人の力量を評価したから。信繁が秀吉の馬廻りに編入され、万石以上の知行を与えられていたのも同じ。

そう考えてくると、犬伏で昌幸・信幸・信繁の判断が分かれた理由も、ちょっと別の見方ができそうだ。つまり、家を離れて主君から個人として評価された経歴をもつ昌幸と信繁。対して、仕えるべき主君が不確かな状況の中で、家を背負いつづけた信幸。このコントラストこそが、「犬伏の別れの本質だったように、僕は思ってしまうのだ。

なお、こうした武士(侍)のメンタリティーに興味がある方は、とりあえずは拙著『戦国の軍隊』(学研パブリッシング 2012)をお読み下さい。(西股総生)

今週のワンポイントイラスト

準主役級の高い出席率ながら存在すら認識されていなかった河原綱家、やっと日の目を見る時 が…! 33 話で福島正則にぶっ飛ばされていたのは完全にフリでしたね。 (みかめ) 

 

文・絵/TEAM ナワバリング(西股総生・みかめゆきよみ)

ナワバリスト(城郭研究家)の西股総生率いる、お城(主に山の城)と縄張りを愛する3人組

 

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その2

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その3

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