インド人もビックリのカレーパン~日本のパンを世界に
欧米に比べて日本のパンは「柔らかい」という。理由は、水が軟水なのと、日本人がモチモチした食感を好むからだと言われている。
「しっとり感、もちもち感のあるパンは海外にはないので、外国人の方からすると非常に珍しくて、日本のパンはすごいしっとりしておいしいなと評価されますね」(河上)
リエゾン・プロジェクトでも、インドネシア、マレーシアなどですでに11のニッポン式のパン屋をオープンさせている。
10月中旬。インド西部の町、プネに河上の姿が。パン屋開業の依頼があれば、海外でも飛んでいく。河上を呼んだのはインド人のラフル・デオさん。デオさんはもともとインドの大手IT企業の社員。日本に駐在中、食べたパンに感動して脱サラ。リエゾン・プロジェクトの研修を受けたのだ。
故郷にニッポン式のパン屋を開くのが念願のデオさん。2日後にレストランで試食会を開く。その結果を見て、店に置くパンを決めるつもりだ。
デオさんが準備を進めている間、河上はインドのパン屋を視察する。インドでも最近、パンが人気を集めている。朝食は必ずパン、という人も増えているそうだ。食パン一斤40円ほど。さっそく食べてみると「過発酵でちょっと酸味が出て、まずいな(笑)」。厨房を覗いてみると、職人が生地の重さも計らず、型に叩きつけるよう投げ入れていく。焼きあがったパンを冷ますのは、床にシートを敷いただけの店の外だ。
「おいしくないですし、衛生面は全く気にせず作っている印象。ただ富裕層はこれで満足しているとは思えないので、富裕層が食べたいパンを作ればよく売れるんじゃないかなと感じました」(河上)
試食会当日。デオさんは漢字で「夢」と書かれたエプロンを着用。いわば勝負服だ。
今回試食してもらうのは18種類。塩バターロールにメロンパン、クルミパンなど。あえて日本の人気パンを出し、どれがインド人の口に合うのかを確かめる。
今回、河上とデオさんには、ぜひとも試してみたいパンがあった。カレーパンだ。
「カレーパンが初めてインドでできる。皆さんどう思うかドキドキしますね」(デオさん)
カレーパンを鍋で揚げていると、匂いに誘われてか、近所の人たちが続々と集まってきた。「おいしい」「パンの中にカレーが入っているのは初めて」……カレーパンはインド人もビックリの味で圧倒的な人気。他の日本のパンもどれも好評だった。
デオさんは来年にはカレーパンを目玉にしたニッポン式のパン屋をオープンする予定。河上は日本のパンをもっと世界に広めたいと思っている。
~村上龍の編集後記~
苦労して名を成した職人は、「簡単に真髄がわかってたまるか」そう思いがちだ。
河上さんは違う。休日なし、睡眠時間3時間、恐ろしく過酷な環境で修行したのに、執着も郷愁もなく、「5日間でパン職人に」というアカデミーを創設した。
「時代も違うし、機械・器材も進歩してますから」あっさりと言う。
きっと「苦労」はしていないのだろう。大変だったに違いないが、ワクワクすることも多く、たぶん「苦」ではなかった。
そのクールで民主的な姿勢が、「毎日食べても飽きないパン」を支えている。
<出演者略歴>
河上祐隆(かわかみ・つねたか) 1962年、大阪府生まれ。高校卒業後、ベーカリー企業に就職。1996年、岡山に「おかやま工房」設立。2009年、リエゾン・プロジェクト、スタート。
source:テレビ東京「カンブリア宮殿」