SONYも脱帽。先見の明で8ミリビデオ時代を制したスゴ腕の町工場

 

元暴走族が大学教授にレクチャー

樹研工業には21歳から69歳までの社員がいる。職人の腕で言えば、60歳あたりは最も腕の立つ年代である。それを定年だから辞めて貰うなどというのは愚の骨頂だと松浦社長は言う。

入社してくるのは、工業高校の卒業生が多い。元暴走族などという連中もいる採用は先着順で、今年は3人と決めたら、後からどんな優秀なのが来ても、「ごめんな。もう3人、決まっちゃたんだわ。来年またおいで」と言って帰って貰う。入社試験などを課すのは、社内で人を育てる自信のない会社のやることだ。

入社したら最低1年間はコンピュータや計測器を使わせずに焼き入れなどの仕事をさせる。焼き入れによって硬さを調整できるのだが、焼いた時にどういう色が出ると何度になっていて、それを油に入れて冷やすとどういう硬さになるのか、自分の五感だけを頼りにやらせるのである。

そうして基本を叩き込まれた後は、田中一夫のようなベテラン職人との厳しい上下関係の下で腕と知識を磨いていく。今の若い人たちには動機と機会を与えれば大きな能力を発揮するという。10万分の1の歯車を作った時も、「世界一のものを作ろう」と言って動機付けをしてやったら、彼らの瞳は輝いて、朝4時から会社に来て仕事に取り組み始める。

日本の有名大学の教授や学生が、樹研に研修にやってくるのだが、レクチャーするのが工業高校卒の元暴走族なのだから、痛快である。

中国よりも安く作れる

こういう職人たちが「こんな歯車が作れないか」という注文を受けると、金型から成型機から、製造条件まですべてを社内で準備して提供する。そしてその製造条件通りやれば、すべて良品ができあがるので、検査は不要だという保証をしている。

また金型と設備一式を売るときには「アフターサービスはいたしません」とあらかじめ断る。5年間は故障しないから樹研からの点検も修理も必要ない、という自信があるからだ。

不良なし故障なしというのも、100万分の1グラムの歯車でも作ってしまう桁違いの技術力があるからこそ実現できるのである。

不良も故障もなければ、設備を動かしていても、人手がかからない。従来の成型機だと20台に人間が最低2人は必要だったが、樹研の設備なら100台の機械を一人で動かせる。人生産性は10倍である。その上に不良は出ない、電気代も4分の1ときたら、中国よりも安くものが出来る

こうなれば、中国の企業がどんなに頭をひねっても、日本の部品を使うしかない、という状況になる。中国企業はもはやライバルではない。いいお客さんなのである。

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