尖閣のトラブルごときで米軍は出ない…「中国脅威論」のウソを暴く

 

尖閣は安保の適用範囲

さて、そういうわけで、中国が今にも尖閣を奪取しようとしているという「危機シナリオそのものがかなり怪しいのだが、まさにそれを起点として日本の防衛戦略を組み立ててきたのが安倍政権である。

中国が尖閣を盗りに来て、そこから南西諸島を島伝いに日本を占領しようとするに決まっているという、劇画『空母いぶき』と同程度の幼稚な危機認識に立って、それに対抗するため与那国島、石垣島、宮古島、奄美大島に陸上自衛隊の島嶼防衛部隊を配備することに血道をあげてきた。しかしそれでは対抗できそうもないので、中国が尖閣を攻めた場合に米軍が出動して共に戦ってくれるのかどうかということが、安倍首相にとっての最大関心事となってきた。

それで、去る2月の安倍・トランプの日米首脳会談でも「尖閣は日米安保の適用範囲という日米共同声明を出させ、しかもそれが最大の成果であるかのごとき報道で溢れ返えらせたのである。

しかし、米大統領がそう口にしたのは初めてではない。14年4月にオバマ前大統領が来日した時には、安倍首相が銀座の寿司屋にまで連れて行って口説き落として、これを達成した。ところがオバマはこれについては全くシラケ切っていて、共同記者会見で「尖閣に関して『中国がここまでやったら許さないという』レッドラインを引いたのか」と問われて、「この条約は私が生まれる前に結ばれたと答えている。抄録から引用しよう。

いくつかの予断に基づいた質問で、私はそれに同意できない。米国と日本の条約は私が生まれる前に結ばれたものだ。だから、私が超えてはならない一線を引いたわけではない。この同盟に関しては、日本の施政下にある領土は全て安全保障条約の適用範囲に含まれているという標準的な解釈を、いくつもの米政権が行ってきた。そしてレッドライン、超えてはならない一線は引かれていない。同時に私が首相に申し上げたのは、この問題に関して事態がエスカレートし続けるのは正しくないということだ。日本と中国は信頼醸成措置をとるべきだ。

 

外交的にできる限りのことを我々も協力していきたい。米国の立場は、どの国も国際法に従わなければならないというにあるが、国際法や規範に違反した国が出てくるたびに、米国が戦争をしなければならない、武力を行使しなければならないというわけではない。

 

私が会談で強調したのは、平和的に解決することの重要性だ。言葉による挑発を避け、どのように日中がお互いに協力していけるかを決めるべきだ。米国は中国とも非常に緊密な関係を保っており、中国が平和的に台頭することは米国も支持している。

私が大新聞の編集局長なら、後段の方を見出しに採って「米大統領、尖閣の平和的解決を強く要求」というニュースにするだろう。しかし日本のほとんどのマスコミは、安倍首相と外務省の世論操作に安易に従って、「尖閣安保適用」を見出しにした。

オバマが「この条約は私が生まれる前に結ばれた」と言ったのは、彼が1961年生まれで、安保条約より1歳若いからである。その自分の生まれる前から存在する条約の第5条には「日本の施政下にある領域における、いずれか一方に対する武力攻撃が自国の平和及び安全を危うくするものであることを認め、自国の憲法上の規定及び手続に従って共通の危険に対処するように行動する」と書いてあるから、日本の施政権下=実効支配下にある尖閣が安保の適用範囲というのは当たり前で、何で安倍首相はそんなことで大騒ぎしているんだろう、という意味である。

3次元を一緒くたにしない

ちなみに、米国の尖閣に関する立場は前々からハッキリしていて、次の3次元からなっている。

  1. 領有権問題については中立。日中で話し合いで解決してほしい。
  2. 日本が実効支配し日本の施政権下にあることは明白で、従って日米安保条約の適用範囲であることは言うまでもない。
  3. 安保条約の解釈として適用範囲であるからといって、そこで紛争が起きた場合に米軍が自動的に参戦するという訳ではない。上掲の安保条約第5条にも「自国の憲法上の規定及び手続きに従って」とあって、これを型通りに解釈すれば米議会が宣戦布告を決議して初めて米軍は日本に対して集団的自衛権を行使できるということになるし、そもそもそれ以前に中国との核を含む全面戦争に発展するリスクを考慮することなしに尖閣の岩礁ごときを巡る紛争に首を突っ込むのかどうかという当然の戦略的判断がなされるはずである。

外務省や安倍首相は、この(1)~(3)の関連をきちんと国民に説明することなく、(2)だけを突出させて、それを米大統領が「イエス」といえば、あたかも(1)の領有権についても米国が日本の立場を支持しているかのような印象を作り出し、さらに(3)についても何かあれば必ず米軍が一緒に戦ってくれると約束したかのような印象を作り出そうとする。3次元をわざとゴチャゴチャにして日米共同の対中国姿勢を盛り上げようというそれこそ「印象操作」である。

断言してもいいが、尖閣のトラブルごときで米軍は出ない。オバマ来日の2カ月余り前の14年2月10日に日本記者クラブで記者会見したアンジェレラ在日米軍司令官(当時)は、次のように語った。

  1. 中国の防空識別圏について
    「現状を力で変えようとするのは認められない。しかし中国は脅威をもたらす国ではなく、我々と地域の安全を共有し、責任の一端を担うことが可能だ。日中が胸襟を開いて対話できる時が来るよう望む」
  2. 日中がもし軍事衝突したら米軍はどうする?
    「衝突が発生することを望まない。仮に発生した場合、救助が我々の最重要の責任だ。米軍が直接介入したら危険なことになる。ゆえに我々は各国指導者に直ちに対話を行い、事態の拡大を阻止するよう求める」
  3. 中国軍が尖閣を占領した場合に米軍は阻止するか?
    「そのような事態を発生させないことが重要だ。もしそういう事態が発生したら、まずは日米首脳による早期会談を促す。次に自衛隊の能力を信ずる」

この在日米軍トップの疑いの余地のない明確な発言を、日本のメディアは1行も報道しなかった

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