尖閣のトラブルごときで米軍は出ない…「中国脅威論」のウソを暴く

 

「南西諸島防衛」の虚妄

以上のように、尖閣周辺への中国公船の出没を誇大に描くことを出発点として、今にも中国が軍事力を頼りに尖閣を盗りに来るに違いないという妄想を国民の意識に擦り込むことが、安倍政権の外交のみならず共謀罪など内政も含めた全政策の大前提となっている。まことに残念なことに、そのヒトラー張りのデマゴギー植え付け作戦はかなりの程度成功していて、それはマスコミの翼賛的協力姿勢によるところが大きい。

そのような下地があって初めて採用され推進されているのが、陸上自衛隊の「島嶼防衛戦略で、すでに16年から与那国島に沿岸警備隊を配備したのに続いて、石垣島、宮古島、奄美大島にも基地を進出させると共に、米海兵隊タイプの「水陸両用機動部隊」を新設して、オスプレイなども備えて「離島奪回作戦」ができるようにするという計画も進んでいる。

今となると、思い出すのも恥ずかしいが、10年ほど前にはこの「島嶼防衛」は、北朝鮮が国家崩壊すると(当時の政府の見積もりでは)少なくとも10~15万人の北朝鮮の難民が海を渡って押し寄せ、その中には一部武装難民が含まれていて日本の離島を占拠する危険があるという文脈で語られていた。

当時、いろいろな機会にこれを議論する機会があって、私は、

  1. 北朝鮮は大量の難民が発生するような形では崩壊しにくい(理由は長くなるので省略)。
  2. 仮に難民が発生したとして、その恐らく99%は、鴨緑江を歩いて渡って、約100万人の朝鮮族が住む中国東北地方に逃げる。
  3. 何らかの理由で海岸に追い詰められた人たちがいたとして、すぐに利用できる船がない。
  4. 仮に船が手に入ったとして、「地獄の資本主義国」と教えられている日本に向かうことはほとんどあり得ず、韓国に上陸するだけだろう。
  5. それでも日本を目指す難民がいたとして、彼ら(の少なくとも一部)は何のために武装しているのか。日本の離島を占拠して「亡命政府」でも樹立してそこに実力で居座ることを目指すのか? そんな想定がある訳がない。

──などと指摘、架空話であると主張した。ある時、文化戦略会議という文化団体のサロンで森本敏=拓大教授(当時、後に防衛相、現拓大総長)にその趣旨のことをぶつけたら、彼は「あれはねえ、北海道でソ連と戦うはずだった陸自がやることがなくなってしまったんだ」と情けないことを言った。私は「そうでしょ。陸自の失業対策なんですね」とからかった。それが、野田&安倍政権のお陰で、今度は中国脅威対応の話として蘇ったのである。

(次号に続く)

image by: WikimediaCommons(Al Jazeera English)

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早稲田大学文学部卒。通信社、広告会社勤務の後、1975年からフリー・ジャーナリストに。現在は半農半ジャーナリストとしてとして活動中。メルマガを読めば日本の置かれている立場が一目瞭然、今なすべきことが見えてくる。

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