そんな「損して得取れ」を実践していた商売人がいます。阪急百貨店の創始者である小林一三氏です。彼は集客力の落ちた百貨店を復活させるために、秘書にあることを命じます。
「大阪中のライスカレーを食べ、一番美味しい店はどこかを調べてこい」。
数週間後、秘書が一番美味しいと思うお店を小林氏に報告したところ、彼はそのお店を阪急百貨店の食堂に入れ、しかも、そのお店の4割安い値段で売り出したのです。大阪で一番のお店の味なので、当然のごとく「阪急のカレーは安くてうまい」と評判になり、お客さまが一気に押し寄せるようになったのです。ライスカレーは安く売る分赤字となりましたが、百貨店全体の売り上げは大きく伸びたのです。
この話では、ライスカレーでお客さまを釣ったように感じるかもしれませんが、そんな底の浅い話ではありません。まず、大阪で一番美味しいお店を探させたこと。やるからには最上級のことをやろう、という意気込みが感じられます。そして、4割も安い価格で提供したこと。美味しいだけでも集客力はあるのに、安くすることで、お客さまをもっと喜ばせようとしたことです。
「目玉商品」というと、安くすることばかりを考えてしまいますが、彼はお客さまを喜ばせることを「目玉」にしたのです。
ライスカレーは大損していますが、笑顔のお客さまが増えたことは、大きな得となったのです。
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