【新空き家ビジネス】元フィリピンパブ寮や過疎地の空き家を大きなビジネスにする方法

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『佐々木俊尚の未来地図レポート』第324号(2014年12月1日号)

先日、AirbnbTABI LABOが共催で開いたイベントに参加したのですが、会場に来ていただいた方のお話でとても興味深いものがありました。その女性は墨田区でAirbnbに物件を提供している「ホスト側」の人です。

念のため説明しておくと、Airbnbというのはアメリカ発のサービスで、空き部屋などを持つ宿泊場所の提供者(ホスト)と、宿泊場所を探している旅行者(ゲスト)をマッチングさせるというものです。すでに190カ国で展開し、これまで宿泊を仲介したのは1000万件という巨大ビジネスに育っています。日本法人もすでに立ち上がっており、現在は日本語でもサービスが提供され、国内の物件もたくさん提供されています。

さて、墨田区の女性が提供されているのは、なんと元はフィリピンパブの従業員寮というお話。相部屋がたくさんあり、キッチン、浴室などもあって、10人ぐらいが泊まることができるといいます。4階建て雑居ビルの1フロアで、親せきのおじさんがもてあましていた物件を「どうにかしてくれ」と頼まれて、Airbnbに貸し出すことにしたんだそうです。ところが蓋を開けてみると、わずか1か月半で、すでに7組の宿泊客が来ているとか。モンゴル相撲の小学生たちがやってきたり、韓国の社員旅行グループが突然前日に「明日泊まれる?」とメッセージしてきたりとか。

Airbnb日本法人の方によると、東京はAirbnbの中でも需給バランスが最も悪い土地だそうです。どういう意味かというと、東京の物件に泊まりたいという外国人観光客はいっぱいいるのに、提供されている物件が少なすぎるのだとか。これはなにかビジネスチャンスが転がっていそうですよね。

墨田の女性は、他にも「シャッター街空き物件」みたいなのがいくつかあり、そうした物件も引き受けてAirbnbに提供することを考えている、というお話をされていました。これは町の活性化につながるかもしれませんね。

Airbnbの関連ビジネス市場というのが、海外ではもの凄い勢いで立ち上がってきているそうです。かぎの受け渡しや清掃、管理、Airbnbへの窓口などを業務として行うビジネスです。家は貸し出してみたいけど、掃除とか管理が面倒だと思う人は多いでしょうから、Airbnbとホストの間に入るこういうビジネスの市場が伸びているのはとてもよくわかります。日本でもこの種のビジネスは徐々に現れてきていて、まだ個人ビジネスレベルだそうですが、Airbnb日本法人で把握しているだけでも20社ぐらいはあるそうです。

管理だけでなく、提供した物件をどうプロモーションするのかというマーケティングの部分。送迎やかぎの受け渡し、掃除などをどうするのかという運営の部分。これらをうまくかみ合わせれば、いま問題になっている過疎地の空き家をビジネス化する可能性が出てくるんじゃないかとも思いました。

今年は妻の仕事の関係で福井によく出向いていますが、いまは越前海岸はまさにカニのシーズン真っ最中で、どこの旅館も満員御礼状態です。賑やかで良いことなのですが、しかしでも冬のカニだけでは旅館は食べていけないんですね。

もともと福井の越前海岸は夏は海水浴、冬は越前ガニで賑わった観光地です。しかし夏の海水浴が最近はさっぱりだといいます。関西から近く海もきれいなところなのですが、レジャーの多様化で必ずしもみんなが海水浴に行く時代ではなくなったということなのでしょう。この結果、旅館の経営は立ち行かなくなり、海岸沿いの北陸の幹線道路、国道8号線を走っていると、廃墟となった旅館やホテルをたくさん見かけます。

地元の越前町もこうした状況を放置しているわけではなく、空き家問題もからめて、たとえばリノベーションした家を提供しようというようなプロジェクトも進んでいるのですが、この土地にどうやって都市部の人に来てもらうのかというアイデアがありません。関西は比較的近いのですが、それでも北陸本線の駅からクルマで1時間ぐらい。飛行機だと、石川県の小松空港から1時間半はかかります。

とはいえ、いくらへんぴな場所にあっても、人気があれば客は来ます。山形県の高名なレストラン「アル・ケッチァーノ」なんて、その典型ですよね。

山形の小さなレストランから庄内の豊かな食の魅力を全国に発信する
「アル・ケッチァーノ」オーナーシェフ 奥田政行さん

「庄内空港から、バスで鶴岡駅へ。駅前からタクシーでさらに約15分」って、かなり遠いですよね。ところが「ポツンと現れた店の前には、ランチタイムを過ぎているのにまだ車が止まっている。ナンバープレートを見ると、横浜、福島、土浦、宮城……」と、みんな遠くから来ているのです。不便な場所にあることが、かえって「秘境感」というのか「隠れ家感」というのか、スペシャリティな感じをかき立てて、逆にメリットになってしまっているということなのでしょう。

こういう「不便だからこそ逆に人が来る」みたいな仕掛けをつくることができれば、越前海岸のような土地でも客を呼び寄せることができるようになるかもしれません。いまは日本は円安で外国人観光客も増え、特に欧米の人たちは「日本らしい風情のあるところにいってみたい」というような希望が高いようです。越前の風情のある限界集落なんてその最適な土地だと思うんですよね。そこでAirbnbを活用すれば、という話に結びつけることができれば良いのではないでしょうか。

 

『佐々木俊尚の未来地図レポート』第324号(2014年12月1日号)

著者/佐々木俊尚(ジャーナリスト)
1961年兵庫県西脇市生まれ。愛知県立岡崎高校卒、早稲田大政経学部政治学科中退。1988年毎日新聞社入社。岐阜支局、中部報道部(名古屋)を経て、東京本社社会部。警視庁捜査一課、遊軍などを担当し、殺人や誘拐、海外テロ、オウム真理教事件などの取材に当たる。1999年アスキーに移籍し、月刊アスキー編集部デスク。2003年退職し、フリージャーナリストとして主にIT分野を取材している。
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