成熟の拒否。なぜ「ちびまる子ちゃん」は幅広い世代に受けたのか

shutterstock_1079670827
 

53歳という若さで亡くなった、漫画家のさくらももこさん。独特の世界観で描かれた『ちびまる子ちゃん』は国民的人気作品となりましたが、なぜ「9歳のまる子」に大人までもが感情移入できたのでしょうか。米国在住の作家・冷泉彰彦さんが、自身のメルマガ『冷泉彰彦のプリンストン通信』でその秘密を探ります。

ちびまる子とは何だったのか?

漫画家のさくらももこさんの訃報が伝えられました。8月15日没で享年53ということでした。実に悲しいニュースに他なりません。

国民的な人気を博したと言われていても、とにかく『ちびまる子ちゃん』というのは一編の愛くるしい漫画に他ならないわけで、あくまで楽しく読めばよく、クソ真面目な論評というのは無粋だとは思います。

そうなのですが、ちょっとこの喪失感というのは、なかなか簡単に支えられそうにありません。そこを埋めるためには、多少クソ真面目であっても、「ちびまる子とは何であったのか?という議論を、この際、考えてみなくてはと思った次第です。

それにしても「まる子」の世界は、美しく結晶した小宇宙でした。そこには次の4つの意味合いがあったように思います。

1つは成熟の拒否ということです。お調子者で、多少怠惰で、しかしながら孤独でもなく、甘える相手に事欠かない「9歳のまる子」に対して、どうして大人も子供も感情移入ができたのか、そこには一種の「成熟を拒否したいという願望が隠されていたのだと思います。

80年代から90年代、そして2000年代から2010年代と、日本の社会においては、「成熟への猛烈なプレッシャーが存在していました。相対化する価値観、それまではタブーだったネガティブな感情が市民権を得て白昼堂々歩き回る世相、経済の観点の拡大、セクシャリティの過剰なまでの露出、そのような洪水とも言える情報に対処するには、人々はどうしても成熟を強いられて行ったのです。

それは多くの人々にとっては余りにも大きなプレッシャーでした。そこからの一種の逃避として「成熟の拒否」というものが志向されたのには、一種に必然があるように思います。人は、ここまで強い圧力には耐えられないからです。それは逃避かもしれませんが、そこには当然すぎるほどの必然性があったということです。

print
いま読まれてます

  • 成熟の拒否。なぜ「ちびまる子ちゃん」は幅広い世代に受けたのか
    この記事が気に入ったら
    いいね!しよう
    MAG2 NEWSの最新情報をお届け