【中島聡×夏野剛】真のキャッシュレス時代の到来を阻む日本的事情

DSC05737
 

メルマガ『週刊 Life is beautiful』の著者で、「Windows 95を設計した日本人」として知られる世界的エンジニアの中島聡さんと、「世界初のモバイルインターネット i-mode を世の中に送り出した男」こと夏野剛さんが、共同で立ち上げたNPO法人「シンギュラリティ・ソサエティ」。先日その設立一周年を記念し、早稲田大学 日本橋キャンパスにて創立者のお二人による対談イベントが開催。「シンギュラリティ世代の経済とテクノロジー」をテーマに、闊達な議論を交わしました。今回は、その対談の模様の一部をMAG2NEWSに特別掲載いたします。

テクノロジーを受け入れる欧米と拒絶する日本

夏野 ……まぁ東京なら、だいたいどの店でもキャッシュレス決済ができるようになりましたけど、まだ時々やっぱりね。この日本橋の近くにも、すげー美味い立ち食いそば屋さんがあるんですよ。「よもだそば」っていうんだけど、マジで美味い。で、そこは何故かインドカレーがまた美味い(笑)。でも、そこは現金しか払えない。

だから、社会がちゃんとITに適合してきてるなというか、社会のシステムの中に普通のことのように取り入れてるのがヨーロッパだったりアメリカだとすれば、無理やりテクノロジーを社会の中に溶け込ませないようにしてるのが、日本のような気がして。

中島 そうですね。日本のコンビニなんかでチケットを買う時でも、機械からバーコードが出るんだけど……。

夏野 それをレジに持って行かないといけない。

中島 アレも変ですよ。あそこでもう払わせて欲しいですよね。

夏野 まったくその通りです。しかも、そういうインターフェイスもあるんですから。BluetoothにWi-Fiも赤外線も付いてるし、一部のコピー機にはNFCも付いてますし。それなのに、やんないっていう……。

中島 日本の銀行もすごいですよね。この前、一時間半ぐらい待たされて、もう怒っちゃいました。

夏野 何をしようとしてたんですか?

中島 前に頼んでた海外移住者向けのお留守番サービスっていうのを、取り消そうと思って。でも、それで一時間半ですよ。もう、ねぇ……。

夏野 そういえば、どこかのケータイショップは、いま予約制になったんですけど、なんと解約手続きの予約はできないんですよ(笑)。「並べ」ってことで。ちょっとした嫌がらせですよね。

ph0001

……ちなみに僕、ベネチアでiPhoneをスられたっていうか、盗られたんです。ポケットに入れてたのをさっと盗られて、うわって怒ったら、ぶわぁって逃げられて。で、最初は追っかけたんだけど、こっちは子ども連れだから追いかけると危ないじゃないですか。だから、子ども連れを狙ってるんでしょうけど。

中島 あぁ、なるほど。

夏野 で、盗られたけど位置とかが全部分かるじゃないですか。「あぁ、ベネチアのこの辺にいる」っていうのが分かるんですけど、そこに行ったらヤバいじゃないですか。だから「しょうがねぇなぁ」って思いながら、銀行のカードとクレジットカードを止めて、iPhoneもデリートしてすべて消去したんです。

それで日本に帰って来て、速攻AppleストアでiPhoneを買ったんだけど、よく考えたらSIMがない。SIMがないとさすがに電話番号が入らないので、SIMを再発行してもらうためにDoCoMoショップに行ったら、5時間も待たされるっていう。しかも、その時間はまだDoCoMoショップは空いてないというか、窓口応対が始まっていなくて。お客さんは誰もいないんですよ。「だったら、やってくれりゃいいじゃん」「SIMの発行なんて一発なのに……」って怒り狂って、そのことをツイートしたら、炎上しちゃいました。

中島 (笑)

夏野 それで「そんな人には構ってられない」とか色々言われたんですけど、それを構わなきゃって話ですよ。スマホの使い方をわからない人が、操作の仕方を教わりに来てるのとはワケが違って、ケータイを無くしたんだから至急対応してくれたっていいし、それが価値なんじゃないですか。で、窓口には人はいないけど、案内の人が2人立ってて、その2人は暇なんですよ。

中島 それなのに、なんで5時間もかかるんでしょうね。

夏野 だから、それは予約の順番ですよ。でも、まだお客さんは来てないんです。だったら「お前がいるじゃねーか」って話じゃないですか。でも「いや、私たちは案内の者ですから」って言うんですよ。「あぁ、もう日本は終わってる……」みたいな。

中島 まぁ、でも日本は人を切れないっていうか、人を切る圧力があんま掛かんないから。アメリカなんかは、とにかくコストを減らそうってことで……。

夏野 確かに。アレはだから、コストを減らそうとしてないから、ああなるんですかね。「時間を掛けて対応する」みたいな。

中島 そういえば、夏野さんのいまの話で思い出しましたけど、Appleのクレジットカード。アレはすごくいいですよ。

夏野 え、どこがどう違うんですか? 日本では発行されてないですよね。

中島 まだ日本では発行されてない。で、カードが僕のApple IDと紐づけされてるんです。だから、何かちょっと問題があったりした時に、iMessageでコンタクトするんですけど、まず本人確認がないんです。いきなり「中島さん、どうしましたか」ってなるんですよ。

夏野 あぁ、Apple IDと紐づけされているから……。

中島 それで「おとといの何十ドルってやつは一旦取り消したいけら、取り消してくれる?」とか言うと、「はい、わかりました」みたいなのが、チャット上のやり取りでできるんです。

夏野 あぁ、なるほど。それってしかも、どこまでが人でどこまでがAIかが分かんないっていうのがいいですね。

中島 そうそう。たぶん、ある程度のところまでAIがやって……。

夏野 AIが振り分けをしたりして。でも、僕は最近、チャットボットの話は面白いなぁって思っっていて。テクノロジーが進化して、Siriのような音声入力が一度主流になったように見えたんだけど、実際はみんな使わない。結果的にAIでいろいろ処理しようと思うと、チャットのほうがいいんですよね。テキストだから間違えないし、認識能力も高いし。で、それ故にいいサービスが提供できるんで、いまはチャットのほうがだいぶ盛り返しましたよね。

だから、eコマースのサイトに行くと、必ずチャットボットがいるじゃないですか。で、どこで人に切り替わってるのかが、全く分からない。アレは最近のITのなかでも面白いなって思います。

中島 そもそも電話って面倒臭いじゃないですか。待たされたり、向こうから掛かってきたり……。でもチャットなら、仕事しながらでもできますから。

夏野 そうなんです。「ながら」でもできる。で、すぐに返ってこなくても怒りが沸かない。だから皆さん、チャットはぜひあえて使ってみてください。ECサイトとかに行くと出てるし、使ってみるとすごく便利だから。

中島 電話だと面倒なところを一瞬ですからね。

ph0002

夏野 ……でも、そのAppleのクレジットカードですけど、そういうのってやっぱりみんな「マイルが貯まるんじゃないか」とか、そういう邪な考えを持ってるじゃないですか。

中島 あぁ。これはキャッシュバックがあって、それもいきなり付くんです。

夏野 あぁ、Amazonのポイント方式ですか。全然貯まらないってやつ。

中島 Appleカードが面白いのは、ポイントがAppleキャッシュに貯まるんです。で、そのキャッシュはiMessageで誰にでも送れる。

夏野 それ、すごくラクでいいじゃないですか。

中島 だから割り勘にした時とかはすごく便利。まぁ、iPhone同士しか通用しないけど。

夏野 でもiPhone同士でいいですよ。Androidとか使ってるやつとは、付き合わないですから。美学が合わない(笑)。あと、Windows使ってるやつとも。

……ていうか、いまウチのマインクラフトが大変なことになっていて。ホント、中島さんの古巣をバカにして申し訳ないんですけど、僕の古巣もバカにして全然構わないんで(笑)。あのMicrosoftアカウントが、ものすごく使いにくいんですよ

中島 あぁ、アカウントが。

夏野 いまマイクラをやろうとすると、Microsoftアカウントと紐づけしないとダメなんですけど、なんか認証が全然上手くいかなくて。なんであんなに使いづらいんだろうって。で、分かんなくなったんで、パスワードを再発行したりと、ループ状態に陥っていて、いま我が家ではマイクラが使えない状態になってるんです。

Apple IDがすごくよくできてるのは、本当に全部紐づけるじゃないですか。Microsoftアカウントは、セキュリティホールをすごい気にして、ああいう使いにくいものになってるのかなって。よく分からないですけど。

中島 ただMicrosoftもいまや分裂状態で、あそこは、本当はエンタープライズに集中するのがいいんですよ。稼いでるし。ただ、マイクラとかXboxはちょっとズレてるけど。

夏野 でもマイクラって、子どものプログラミング教育の第一弾としては、最高なんですよね。

中島 そうですね。それは確かに。

夏野 えー、じゃぁ分離して欲しい(笑)。Microsoftアカウントから分離して欲しい、とりあえず。……でも、Appleのクレジットカードの話ですけど、今後に期待ですね。「ユーザーインターフェースで、どこまで金融を支配できるか」っていう、新たなテーマですね。

中島 その上、後ろがゴールドマンサックスで、そのゴールドマンサックスは、店舗を持ってないじゃないですか。だからコレって、実は殴り込みなんです。バンカメとかチェースとか、そういう店舗を持ってるところに対しての。だから、もう異常なんですね。ゴールドマンサックスっていう巨大な資本を持ったフィンテックが、Appleと組んで、ユーザーインターフェースを担当させてっていう。だから、手数料とかべらぼうに安い。

ph0003

夏野 へー。

中島 僕はいままでアメリカのクレジットカードは日本で使わなかったんですよ。手数料を取るから。でも、ココは取らないんです。……なんか為替レートの宣伝をしてるみたいだけど(笑)。

夏野 いいですね。コレって、日本で発行できる日が来るんですかね?

中島 たぶんするんじゃないですかね。ゴールドマンサックスがどう出るかですけど、もし出たら日本の銀行はヤバいですよ。だから、UFJとかに就職したがっている子どもたちの気持ちが、僕はよく分かんないんだけど。

夏野 バカですね(笑)

中島 店舗を持ってる日本の銀行はみんなヤバいですよ。こういうのが出てきたら。

夏野 金融庁は認可しないかもしれないですね、そうすると。

中島 そうですね、日本の銀行を守りたいから。でも、アメリカはそういうことがないから、こういうのが現れて、新陳代謝がバッと起こるんですよ。

夏野 ちょっと……欲しいですね、Appleカード。

中島 今日は自慢のために持ってきたんです(笑)

夏野 で、日本でも使えるんでしょ?

中島 はい、全然使えます。為替レートもいいですよ、108円ぐらいかな。で、どこで使ったのがGPSで出るから、よくレストランとかで覚えてない時ってあるじゃないですか、どこで使ったのか。履歴を見た時に「なんだ、この店は?」って思った時に、地図が出るから「あ、あの店か」って分かるんですよ。

夏野 ほう。でも、テクノロジー的に見れば、何も大したことがない。

中島 そう。組み合わせただけなんですよね。

夏野 何にも新しくないんだけど、全部が組み合わさるとめっちゃ新しいですよね。……で、iPhoneですべて管理出来て、最終的には銀行から引き落とすと?

中島 そう。それに自動引き落としじゃなくて、いつ引き落とすかを自分で決められるんです。そこも気持ちよくて……。日本のクレジットカードって、勝手に引き落とすじゃないですか。

夏野 じゃぁ、チェックを払うような感じで?

中島 そう。iPhoneを見ながら「コレとコレとコレはいいや」って感じで。それで「いま払うと金利が掛かりませんよ」「何日後に払うと、これだけ金利が掛かりますよ」っていうのがグラフで出てきて。もう、iPhoneですべて完結。だから、iPhone好きの人にはたまらないですよ。

夏野 ほしーい(笑)。でも、僕はそういう世界を作りたかった。ケータイにすべてを集約させたくて、ケータイに色々と機能を付け始めたんですよね。で、ケータイひとつあれば、どこでも生きていける。災害があった時でも、ケータイさえ持って出れば、それで生きていけるっていう世界を作りたくて、それでいろいろおサイフケータイとかやったわけですけど、それをやってくれた感じがありますね。……終わった、俺の夢は終わりましたよ(笑)

中島 でも、やっぱりiモードはすごかったですよ。

夏野 いやいや。でも、何か引き継がれたような感じはします。

中島 iモードの魂がね。

夏野 うん。そういえば、Appleの最初のiPhoneのデベロップメントチームの人には、すごく言われました。「すげー、iモードを研究したから」って。

中島 そりゃ、そうですよ。

夏野 すごく引き継いでもらった感があって、うれしいですよね。だから、先月iPhone無くして新しいのを買ったばかりなんだけど、もう明日にはiPhone11を買う予定(笑)。もうしょうがない、これは。

ph0004
でも、そうやって理想の社会がやって来たというのに、地下鉄はみんなSuicaじゃないといけないとか、チケットは必ず発券しないといけないとか……。日本のそういうところは、もうそろそろ止めにして欲しいですね。

中島聡この著者の記事一覧

マイクロソフト本社勤務後、ソフトウェアベンチャーUIEvolution Inc.を米国シアトルで起業。IT業界から日本の原発問題まで、感情論を排した冷静な筆致で綴られるメルマガは必読。

有料メルマガ好評配信中

  初月無料で読んでみる  

この記事が気に入ったら登録!しよう 『 週刊 Life is beautiful 』

【著者】 中島聡 【月額】 初月無料!月額880円(税込) 【発行周期】 毎週 火曜日(年末年始を除く) 発行予定

print

  • 【中島聡×夏野剛】真のキャッシュレス時代の到来を阻む日本的事情
    この記事が気に入ったら
    いいね!しよう
    MAG2 NEWSの最新情報をお届け