ロシアでさえ国家破綻か。新型コロナが世界にもたらす3つの危機

 

一つは、深刻な雇用危機です。アメリカでは、4月の実質失業率は14.7%に達してしまい(参考までに3月の失業率は4.4%でした)、5月以降はさらなる悪化が見込まれています。ゆえにアメリカの多くの州で、見切り発車的にでも経済活動の再開が急がれているのだと思われます。

フィリピンでは低所得層に一時金を配るという施策が取られるようですが、経済成長のエンジンとなる中所得層にはそのような対策は取られず、失業率は悪化する一方です。

タイでも解雇が相次ぎ、なかなかニュースにはなりませんが、非常に険悪な雰囲気と不安が募っているそうです。

先日もお話ししましたが、全世界レベルでは今回のコロナウイルスの感染拡大の影響を受け、コロナを言い訳に使う解雇も含めると、ILOなどの国際機関によると、16億人が失業問題に直面し、そのうち11億人が途上国に存在するということです。

移動の制限と物流の停止、そして生産の停止といった悪の連鎖反応を受け、農業を含む様々な産業に大きなダメージを与えることになります。

各国のメディアの論調を総合的に見てみると、「今起こっている深刻な雇用問題は、恐らく一時的な解雇・失職によるもので、コロナウイルスの感染拡大が収まれば経済活動が戻るだろうから、時間とともに解決する」というように楽観的な見方が多いように思いますが、実際にはどうなのでしょうか。

私たちも緊急事態宣言の下、すでに経験しているリモートワークに代表される経済活動のモードチェンジを受け、After Coronaの世界においては、Before Coronaのような働き方や経済構造には戻らず、ゆえに、雇用は以前の状態には戻らないという予測も存在します。

実際にどのようになるのかについては、私は専門家ではありませんので何とも言い切れませんが、世界第3位の規模を誇る経済国で技術大国、そして海外からの資源輸入に重度に頼り、そして非正規雇用労働者による労働の提供に依存する経済構造が固定化している日本が、コロナ禍がある程度収まった後にどのような“回復”を見せるのか、今から考えておかなくてはなりません。

二つ目の“危機”は、雇用危機にも深く絡みますが、資源を巡る調達危機です。先日もこのメルマガでお話しした食糧危機もその一つです。アメリカでは、メキシコからの農業従事者がコロナにより就業できず、大規模農業で生産するスタイルでの供給ができないという事態になります。また酪農・畜産では、例えば、食肉業界では、一社当たり1日に日本円にして1億5,000万円ほどの損失が出ており、それは流通網のマヒという事態と絡まって、【コロナで死ぬのが先か、経済的に絞殺されるのが先か】という状況にまで悪化していると言います。

アメリカに関して言えば、今回のコロナ騒ぎでさらに悪化する米中関係が、このアメリカにおける農業・畜産業の惨状をさらに悪化させることになるかもしれません。ご存じの通り、米中貿易戦争の解決策として今年初めに第1段階の合意ができており、中国は米国の農産物を購入することになっていますが、もし、非難合戦が加速する中、習近平国家主席が第1段階の合意内容の履行を拒んだら(すでにその兆しがあります)、アメリカの農作物・畜産物の売り先がなくなり、コロナによる労働力の確保ができないという状況と、外食産業の休業を受けた需要の著しい低下や流通網のマヒで被っているコストに追い打ちをかけることになり、雇用危機と共に食糧危機を引き起こす可能性が囁かれるようになってきました。

これまでのところ、大票田であるはずの農業・畜産業労働者に対して、トランプ政権が効果的な策を示せてはおらず、11月の選挙に向けて暗雲が立ち込めるかもしれません。ゆえにトランプ大統領としては大きなキャンペーンを打つのだと思いますが、それは同時に他のセクターにしわ寄せをもたらす可能性があり、危険な綱渡りとなるでしょう。

アメリカから目を離してみても、資源を巡る危機は世界中いたるところに存在します。その顕著な例が食糧で、ロシアとウクライナがすでに実施している小麦の輸出規制や、ベトナムがSARS(2003年)に倣ってコメの輸出制限を始めるとの動きも察知しました。

FAOやWFPの試算では、まだまだ世界的な食料の備蓄は十分あるため、パニックに陥る必要はないとのことですが、流通網がストップもしくはマヒしている状況は、食糧があっても届けられないという別の危機に波及するかもしれません。

資源を巡る危機は、非鉄金属やレアメタルという現在の技術に欠かせない資源の供給にも大きな影響を与えています。例えば日本の総合商社は相次いでアフリカ大陸とラテンアメリカ諸国での非鉄金属鉱山などの海外事業の操業停止を決めました。これは現地での労働力がコロナで一向に戻ってこないことで満足な採掘が叶わないという状況もありますが、それゆえに加熱し始めているのが、銅やニッケル、亜鉛といった鉱石の争奪戦です。

中国が産業・工業の稼働再開を進める中、これら非鉄金属への需要とニーズが急激に上がってきていますが、供給が全く追い付かず、結果、非鉄金属の価格が今、上昇しています。このことで、コロナですでに被った多大なコスト・損失に、価格の上昇が追い打ちをかけ、資源関連企業の経営や財政を圧迫する恐れがハッキリしてきています。

これは、アフターコロナの世界でいち早い回復を目論む魏業や各国政府にとっては、回復機運を冷やす要因になるのではないかと懸念します。

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