BS-TBSで2日の放送された『報道1930』では、尖閣諸島沖で中国当局の船に追われた漁船に関する特集番組が放送されました。中国の王毅外相も言及したというこの漁船は「右派系の活動家」がチャーターした可能性がある、という重要情報を明かしたのは、メルマガ『NEWSを疑え!』を主宰する軍事アナリストの小川和久さん。小川さんは、TBSがこの情報について何も触れなかったことについて、尖閣問題の上っ面を撫でただけと指摘。「報道のTBS」を自称する同局の姿勢に対して厳しい意見を述べています。
やっぱり上っ面、TBSの尖閣報道
12月2日19時30分からのBS-TBS『報道1930』は「中国当局の船に追われた“緊迫の14時間”」と銘打って、長尺の番組を放送しました。
ゲストは、宮本雄二元駐中国大使と香田洋二元自衛艦隊司令官。ホームページで紹介された内容は、「激化する尖閣沖で今、何が…追尾された漁師が語る「まさに侵略を受けている」「偽装漁船だ」王毅外相の強硬姿勢…中国の真意は」と刺激的です。
松原耕二キャスターのもと、「報道のTBS」の血脈を絶やさないようにとの意気込みで始められた大型番組です。
松原さんはツイッターに次のように投稿しています。
昨夜の『報道1930』は尖閣の現実。与那国島の漁師、金城和司さんは7月と10月に巨大な中国海警局の船に追尾され衝突の恐怖を味わった。金城さんが撮影した生々しい映像と中継での証言は、中国が実効支配に向けて着々と手を打っていることを実感させる。西の海のリアルな現実を知ることがいかに大切か。
— 松原耕二 (@matsubarakoji) December 3, 2020
番組では、漁船側から持ち込まれた映像で迫ってくる海警局の公船の姿を強調しています。
尖閣沖の日本漁船については、先日来、自民党内などで反発が相次ぐ中国の王毅外相の発言にも登場しています。王毅氏は次のように述べています。
「偽装した漁船が繰り返し敏感な海域に入っている。このような船を入れないようにすることが大事だ」
王毅氏の発言は中国の国益に沿ったものですから、日本としてきちんと反論すればよいだけですが、気になるのは王毅氏の情報の確度です。
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実を言えば、中国側が問題にする尖閣沖の日本漁船については、右派系の活動家がチャーターしたもので、海上保安庁の制止も聞かなかったと囁かれていました。私も、複数の情報関係者から同じことを聞かされています。金城さんがそれに該当するのかどうか。
王毅氏は確かに、日本政府周辺からの情報をもとに発言しているフシがあるのです。日本政府内部に情報源を持っていると言ってよいかも知れません。
そこでTBSの『報道1930』ですが、漁船側と王毅外相の発言を両論併記の形で放送するのではなく、なぜ海警局の公船に追われることを覚悟で尖閣沖に出るのか、領土領海に関する日本政府の不十分な姿勢を突くところまで掘り下げて欲しかったと思います。
番組は、海上保安庁法をどう変えればよいのかという枝葉の議論になっていましたが、それでは対処できないことが理解されていません。それ以前に、必要な時には強硬措置を講じられると明記した中国なみの領海法を制定しなければ、どうしようもないのです。
そこまで報道すれば、「偽装漁船」だとする王毅氏の発言を裏づけることになりますが、漁船の側はそれが事実だと明らかになっても、覚悟のうえですから実害はありません。報道する側としては、中国要人に情報が流れている現実にも焦点を当てると、報道に厚みが出て、上っ面を撫でた印象を払拭できたのではないでしょうか。(小川和久)
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