コロナ対策や接待漬けの総務省幹部の問題など、内政面で失点続きの菅内閣は、バイデン政権に対面外交の「一番乗り」を働きかけ、実現にこぎつけたようです。これを歓迎する政府及び自民党の関係者と、そのコメントを報じ同調する読売新聞に注文をつけるのは、軍事アナリストでメルマガ『NEWSを疑え!』を主宰する小川和久さんです。小川さんは、基地問題で混乱を招いた鳩山政権に対するアーミテージ元国務副長官の助言を紹介。米国が日本のどこをなぜ尊重しているのか正しく理解しなくては、外交面の課題は解決できないと危惧しています。
日米首脳会談、米国側の本音
13日付の読売新聞は第3面の1ページを使って次の記事を掲載しました。
日米軸に対中戦略 バイデン政権 「長期的な競争」備え
「米国のバイデン政権の外交が本格始動した。菅首相の4月訪米や、12日に実現した初の日米豪印4か国による首脳会談は、政権が最重要課題と位置付ける中国との『長期的な戦略的競争』を、日米同盟を基軸に勝ち抜こうという決意の表れだ。日本は同盟国としての貢献が問われる。
(中略)日本政府は、バイデン米政権のインド太平洋重視の姿勢を歓迎している。尖閣諸島などを巡って増大する中国の脅威に対抗するには、米国の抑止力が不可欠なためだ。
日本政府は、バイデン大統領との対面首脳会談『一番乗り』を米側に働きかけてきた。茂木外相は12日の記者会見で、首相の訪米が固まったことについて、『日米同盟の強化に対するバイデン政権の強いコミットメント(関与)を示すものとして歓迎したい』と語った。
菅内閣は新型コロナウイルス感染対策を巡る後手の対応や、総務省幹部への接待問題などで逆風にさらされている。政府・与党は『大統領からの「特別扱い」という分かりやすい外交成果で政権浮揚につなげたい』(自民党幹部)と期待をかけている。(後略)」(3月13日付 読売新聞)
中国の動向から目を離せない現在、バイデン政権発足によってさらに日米関係が強固になっていくのは日本にとって願ってもないことです。日本政府が歓迎するのは自然の流れです。
問題は、「「一番乗り」を米側に働きかけてきた」という点と、「大統領からの『特別扱い』という分かりやすい外交成果で政権浮揚につなげたい」とする日本側の発想です。働きかけた結果、一番乗りになったというのは事実でしょう。首脳会談が順調に行われれば政権浮揚につながるかも知れません。しかし、米国の立場から日本を眺める視点を、特に新聞には備えてもらいたいと思います。
米国の世界戦略にとって日本列島という戦略的根拠地は必要不可欠です。これはメルマガ『NEWSを疑え!』で繰り返し述べてきたとおりです。だから、ほかの同盟国とは比べものにならないほど日本を重視しているのです。その米国の対日姿勢は、国民の評価が高まらない菅義偉首相であろうとも変わらないのだと受け止めるべきなのです。単純に喜ぶ訳にはいかないのです。
この点については、民主党の鳩山由紀夫政権の時に沖縄・普天間基地問題で米国側と協議したときの、リチャード・アーミテージ元国務副長官の助言を思い出します。
「友人だという前提で率直に申し上げる。米国で鳩山首相が尊重されているのは、同盟国日本の国民に選挙で選ばれたという一点においてだけです。鳩山首相の判断能力と意図については、大きな疑問がある」(2010年5月3日)
菅首相についても、米国側の呟きが聞こえてくるようです。
「米国で菅首相が尊重されているのは、同盟国日本の国民に選挙で選ばれたという一点に置いてだけだ。菅首相と信頼関係を築けるかどうか、それはこれからの行動によって判断する」
働きかけが成功した、これで政権浮揚だと、浮かれていられないことがわかるでしょう。米国の外交的配慮は自国にとっての利害得失を戦略的に計算したものなのです。それを好意だと勘違いしているようでは、米国からも中国やロシアからも足もとを見られるだけで、尖閣諸島や北方領土問題の解決などおぼつかないことを肝に銘じるべきでしょう。(小川和久)
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